
あたしの好きな人
第5章 新しい生活
たかが5分のスピーチなのに、明らかにオーバーしてる人もいれば、
つまらない自己紹介をだらだら言う人もいる。
にっこり笑う咲良の瞳を見て、この人、面白がってるなと、気付いた。
気付いて馬鹿馬鹿しくなった。
どうせなら、面白がってるこの人の、笑顔が見たい。
肩の力が抜けて、自分のスピーチの番になり、
俺は北海道出身の田舎育ち、専業農家だったから、体力だけは人一倍あり、何より健康だと主張して、
ついでに東京の人が嫁に欲しいと、面白おかしく言ってみた。
時間はきっちり5分くらい。
笑っている社員の中で、咲良の笑顔にひきよせられて、
堪らなく惹かれてしまった。
一目惚れの瞬間だった。
運良く咲良と同じ部署で働き、ずっと憧れ続け、打ち上げの飲み会で勇気を出して告白したんだ。
そこからはセフレという存在のまま、流されやすい咲良の家に居座り続けている。
……神谷 岳人の影に怯えて。
眠っている咲良のうわごとを聞いたことがある、消え入るような声で、甘く囁く。
「……岳人…っ…んっ…」
俺とセックスした後に、好きな男の夢を見るの?
俺とキスしたその唇で、好きな男の名前を呼ぶの?
聞いたことのない、甘い声で。
なんて、残酷な女なんだろう。
だから……俺はほぼ毎日、咲良を抱くのをやめられない、
やめてあげられない。
その体に残る記憶を消すため、思い出す隙を与えない。
あそこの形が俺のに変わるくらいに、突きまくり、イかせ続ける。
体だけでも繋ぎとめられるなら、ずっと抱きしめ続ける。
