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あたしの好きな人

第5章 新しい生活




哲side


咲良が風呂に入り、ケータイがテーブルの上に無造作に置かれたままだと気付いた。

たった今の会話の相手、その番号を自分のケータイに入力して、電話を鳴らす。

「……はい、どなたですか?」

鼻にかかる、甘い声の女性だ。

「すいません俺、咲良さんと一緒に暮らしているものなんですけど……」

「……はぁっ?」

電話の主、洋子さんは大きな声で返事した。


洋子さんと咲良の会話の内容で、俺が気になったワードがあった。

……岳人という男の名前。

今日の午後から上の空の咲良の様子、フロントで誰かが来たと調べていたという、会社の人の報告。

カミヤダイニングの関係者が、ホテルに来たという。

そして俺が確認した、カミヤダイニングの関係者の名前は、

神谷 岳人だった。

咲良が良く行くバーでの打ち上げの飲み会は、カミヤダイニングの系列だった。

トイレへ行く咲良を追いかけて、カウンターにいる男と会話していた。

そしてその男と朝出会ったことがあった。

咲良のアパートの前で。

間違いない、咲良の心にずっと居座っているのは、神谷 岳人だ。



咲良とはじめて出会ったのは、新入社員の説明会。

大学卒業後に採用され、説明会ではかっちりしたビジネススーツ、髪もかっちりしていた。

新入社員の自己紹介があり、一人一人が5分以上のスピーチをする場面があった。

咲良は社員として、新入社員の補佐を務めていた。

他にも社員は沢山いたのに、俺のすぐ傍で立つ咲良が気になってしょうがなかった。

目の覚めるような美人、スラリとしてスタイル良くて、凛とした瞳が印象的だった。

だから余計に緊張していたのに。

あろうことか、そんなガチガチの俺に、咲良はからかうような眼差しで、すっと近付いた。

「リラックスだよ?そんなに緊張しない~」

「いえ、俺、人と会話するのは好きなんですけど、自己紹介が苦手でアピールするいい話なんかなくて、恥ずかしい話ならあるんでけど」

「……じゃあ、それをネタにして話してみたら?ありきたりの自己紹介よりも、面白い話を聞きたいな?」

自己紹介で目を引いた社員が、その後の配属が決まる。

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