あたしの好きな人
第7章 セフレの固執
目が覚めたら、そこには岳人は居なかった。
気が付いたら昼前で、自分がどれだけ寝たのか驚いてしまう。
ベッドの上はなんとなくシーツの乱れが直されて、散らかした筈の薔薇の花が、
あたしの体を囲うように、散りばめられていた。
破られたドレスは途中で脱ぎ捨てたのに、どこにも見当たらなくて、
あたしは裸のままで眠っていた。
ゆっくりと薔薇を踏まないように気を付けて、ベッドから降りる。
ブランドのショップの紙袋に気が付いて、中身はあたしが仕事で良く着るバンツスーツだった。
ストッキングもある。
あたしの好きなブランドだと気付いた。
……岳人が買ってきてくれたのかな?
荷物はホテルに預けたままだから、着替えはあるのはあるんだけど、
ドレスやストッキングを破いたから、気を使ってくれたのかな?
首を傾げてシャワーを浴びて、メールが入ってるのに気付いた。
『ドレスは似たデザインのモノを、お前の実家に届けたから、部屋は明日まで過ごしても構わない、必ずまた、お前に会いに行くから、大人しく待っていろ』
……岳人からのメールだ。
でも、悪いけど、明日は仕事だし、今日はもう帰らなくちゃいけない。
溜め息をついて準備をして、せっかくだから岳人の用意してくれた、スーツを着て、
部屋を片付けてホテルを出た。
「お客様、咲良様ですか?」
ホテルを出る時に、フロントに声を掛けるとそう聞かれて、
「はい」
返事をすると他の従業員と顔を見合わせて、何やらひそひそ話をしている。
「あの、失礼ですが、どちらに行かれるんでしょうか?」
「うちに帰るんだけど?」
「社長はそれをご存知で?」
……ああ、なるほど、岳人にあたしを見張るように言いつけられてるってこと?
「分かったわ、岳人にはあたしから連絡するから、ごめんね?」
そう言って笑うと、フロントの人は何故だか、ほんのりと顔を赤らめた。
しょうがないから、手早くメールする。
『大阪に帰るからね』
ケータイを閉じて、ホテルを出た。
それから10分後に、岳人が来たということも、気付かないまま、
大阪に帰ったんだ。