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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第3章 秘密の楽園 2

◆c


二秒くらい合っていた視線がふいにぷいっと逸らされ、また机に向かって手を動かし始めたかず。


やっぱり俺が何言ってもダメなのか…と諦めかけた時、ペンの走る音に紛れて消え入りそうな声が聞こえて。


「え?」

「…知らないんだろ、まさきは」

「え、何を?」


相変わらず円を描き続ける手元を背後から眺めながら、か細い声で続けるかずの言葉に耳を傾ける。


「…俺がやる役」

「っ…」


かずのその言葉に思わず詰まってしまい。


変な間が空いてしまったのを察したかずが、弾かれたように俺に振り向いた。


「…知ってたの?」

「え?いやっ、その…」


完全に口籠ってしまった俺に向けられた視線は、怒りのような悲しみのような鋭いもので。


「知ってて…勧めたってこと?」


ぽつりそう呟いた表情がたちまち暗く翳っていく。


そんなかずの表情に焦って、胸がぎゅっと締め付けられて。


同時に、こんな顔をするかずに驚きを隠せない。


俺だってかずにあんな役させたくないよ。


でも大野さんにどうしてもって頼まれたから…


「は…なんだよそれ。それでも兄貴かよ」

「…え?」

「面白がってるだけだろ、あんな役がきた俺のこと」

「は?何言って、」

「うるさいっ!もう出てけよっ…!」


静かだった口調が段々激しくなり、捨て台詞のように吐き出された言葉。


それだけじゃ治まらなかったのか、机上のペンケースを持って振りかぶろうとしたから咄嗟に立ち上がり。


上げられた左手を捕まえると、驚いたかずの顔が至近距離に迫る。


細い手首は俺の手の平で簡単に握れてしまう程で。


その頼りなさげな感触と間近の潤んだ瞳が幼い頃のかずと重なった。


可愛かったかず。


俺の大切な弟。


それなのに、なんでこんなことになってしまったんだろう。


なんで…こんなにもすれ違ってしまったんだろう。


色んな想いがふつふつと込み上げてきて、無意識に手首を握る手に力が入ってしまう。


「っ、痛い…」

「かず」


眉間に皺を寄せうるうるしたまま見つめてくる瞳にまっすぐ焦点を合わせ。


「…痛い、離して」

「聞けよ」

「やだ、離し…」

「逃げんな」


逸らそうとした顔を正すように手首をグッと引き寄せれば、かずの瞳が揺れながら俺を捉えた。

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