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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第4章 秘密の楽園 3

☆m


二人で来るなんて聞いてない!


部活の仲間で行くって言っていたのにどうして…


どうしてそんな嘘ついたんだよ。


「あいつ今日ちょっと様子がおかしいんだよな」

「え?」

「自分から花火に誘ってきたのによ、ずっと上の空っつーか」


ちょっと危なっかしいんだわ、って話してる最中も大野さんの視線は周囲に向いていて。


「はい、お待ち」とようやく出てきたパンパンの焼きそばを素早く掻っさらうと、すぐに踵を返した。


「ちょ、大野さん!」

「わりぃ、俺あいつ探しに行っから」


人混みをさらりと躱して駆けていった大野さんはあっという間に人波に掻き消されてしまって。


ざわざわと流れる人の流れを見て呆然と立ち尽くしていると「私も行くね」ってマネージャーの声がした。


「あ、うん…」


ひらひらと笑顔で手を振るマネージャーを見送って無意識に取り出したスマホ。


明かりの灯るディスプレイ。


そこには何の知らせもない。


表示された時刻は花火が始まる十五分前。


翔ちゃんたちと落ち合うならもうそろそろ戻らないといけない時間。


だけど……


『二人で来た』


『ちょっと危なっかしいんだわ』


大野さんの声が頭の中でリフレインしていて。


ついでになぜか哀しげなかずの顔まで浮かんできちゃって振り払おうにも払えない。


こんなの、花火どころじゃねぇだろ…


「くそっ…!」


スマホをポケットに戻して大野さんの向かった方向へと急いだ。


「すみませんっ、すみません…」


かなり密集し始めた人波。


その間を掻き分け横切るのも一苦労。


そもそもかずがどこにいるかも分からない。


それなのにこんな当てもなく探しても何の意味もないはずなのに。


でも、どこか…


どこかにいるはず。


かずを見つけられるのは俺しかいないなんて、よく分からない自信というか正義感というか。


そんなもんが湧き上がってくるからがむしゃらに人を掻き分けて進んだ。

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