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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第4章 秘密の楽園 3

◆c


キョロキョロと目を配りながら進んでいると、ふと目に入った後ろ姿。


人波に押されるように歩いている姿は、背格好も頭の形も紛れも無くかずだ。


居たっ…!


その後ろ姿から目を離さずに、ただがむしゃらに人波を押し退けて進む。


「かずっ!」


追い付いたのも束の間、肩に手を掛けてグイッと振り向かせれば。


驚いたようにこちらを見る、全然知らない顔。


「っ、あ…すみませんっ…!」


一瞬で人違いだって分かって慌てて頭を下げる。


相変わらず後ろからの人波に押されながら、やっと見つけたと思ったのにそのダメージはかなり大きくて。


…やっぱりこんな人の中で見つけられるはずないよな。


くっそ…
どこだよかずのやつ…!


そんな時ふいに浮かんできた小さい頃の記憶。


あれだけはぐれるなよって言ってても絶対あいつは迷子になってた。


その度にかずを探しまくって、見つかるのはいつも決まった場所。


もしかして…


その場所でわんわん泣くあの頃のかずが浮かんできて、居ても立ってもいられずまた人波を掻き分けて進んだ。


こんなに広くてこんなに沢山の人がいる場所で、かずを見つけられるのはもうあそこしかない。


かず…
お願いだから居てくれっ…!


人波に押されながら進んでいると、ざわめきが急に歓声に変わって。


同時にドーンという大きな音と、遥か頭上に咲いた大輪の花。


一瞬目を奪われそうになったけど、今はそれどころじゃない。


頭を掠めた翔ちゃんたちのことも『ごめん!』って心で謝って振り払った。


立ち止まって空を見上げる人々の間を縫って目的の場所へと急ぐ。


今まで波に乗っていた分、割と前に進めていたけど。


人の群れをくぐりながら進むのはかなり体力を使う。


しかも脳裏にはかずの泣き顔が離れなくて気持ちだけが焦って。


そんな俺をよそに夜空には次々に花火が咲き乱れる。


まるで一刻も早くかずを見つけろって急かしてるみたいに。


歓声を漏らす人々を掻き分けて、ようやく辿り着いたその場所。


かずが大好きなりんご飴の屋台。


そこに、周りの人々と同じように夜空を見上げる横顔をはっきりと見つけて。


やっぱり…!


「かずっ!」


そう呼んだ時、また一段と大きな花火が上がって俺の声は掻き消された。

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