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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第4章 秘密の楽園 3

☆m


変わらず夜空を見上げる横顔。


彩り豊かな大輪の花が打ち上がる度に色白な肌が染まる。


だけどその顔に表情はなくて。


まるで湧き上がる歓声や周囲の人々からそこだけ切り取られたように、かずはただじっと花火を見上げていた。


再び脳裏に蘇ってきた大野さんの言葉。


『危なっかしい』というか妙に思い詰めたような…


いつもと違う空気を纏うかずに一瞬だけたじろいでしまった。


しかしその瞬間ふっと視線を落としたかずが振り返り、歩き始めようとしたから慌てて手を伸ばした。


「かずっ!」


呼んでも呼んでも掻き消されて届かない声。


くそっ…!


「すみませんっ…通してください!」


人を掻き分け突き進んだ先、ようやくかずに手が届きそうなところまで辿り着き。


「…かずっ!」


指の先の先まで伸ばし、やっとの思いでその細い腕を捕まえた。


急に引っ張られたかずが驚き振り返る。


「っ…ま、さき…?」


さらに俺を捉えた瞬間にその瞳は大きく見開かれた。


「はぁ、はぁ…ったく、何はぐれてんだよ」


かずを探し始めて二十分近く。


これまでに消耗した体力を庇うように、大きく呼吸する俺を驚き見ていたかずだったがその表情は次第に曇り。


「まさきこそ…何やってんだよ、こんなとこで」


その瞳はいつもと同じ、睨むように細められてしまった。


それとともに振り解かれる手。


幼き日、かずを見つけてやった時とは正反対の態度にチクリと胸が痛む。


あの時は泣いて飛びついてきたというのに。


どうしてこんなにも態度が変わってしまったのだろう…


「俺、大野さんと待ち合わせしてるから」


左手に握られているスマホ。


かずを見つけられるのは俺だけだと、そう思ってるのは俺だけなのか?


そうして人混みに消えようとするかずの腕へともう一度手を伸ばした。


「っ、何だよ」

「ねぇ、かず。大野さんと二人で来てんの?」

「……だったら何?」


まさきには関係ないじゃん、ってまたそれかよ。

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