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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第5章 秘密の楽園 4

◆c


風呂に行ったかずから逃げるように部屋へ戻り、ベッドに投げ捨てていたスマホを手に取ると。


そこに連なる着信とメッセージの山。


放置したままだったその存在で、かずのことでそっちのけになっていた翔ちゃんたちのことを思い出す。


慌ててコールをしても出なかったからとりあえず謝罪のメッセージを送り。


床に散らばる通学カバンやらに目をやれば、部活で使った練習着が顔を覗かせていて。


それを拾い上げてふと動きを止めた。


…後で持っていこ。


今はとてもじゃないけど風呂場に近付けるような状態じゃない。


何をそこまでかずにビビってんだって自分に言ってやりたいけど。


だってどうしたらいいか分かんねぇんだよ。


だってさ…
気付いちゃったかもしれないんだ、俺。


…かずの気持ちに。


ボフッと大きな音を立ててベッドに身を投げる。


かずが…


俺を兄貴以上の特別な存在として見ていたら。


そしたら俺は…


一体どうしたらいい?


じゃあ俺はかずのこと…


どう思ってるの?


真上の天井のシミをただ見つめながら、この逸る心臓の意味を何とか呑み込もうとしていた。


すると、ふと聞こえてきた静かな音。


タンタンとゆっくり階段を上がってくる気配に、一気に心臓が早鐘を打つ。


思わず体を起こし、息を止めてジッとドアを見つめて。


タンと上がりきった足音と、ほんの少しの間のあと。


向かいのかずの部屋が開く音がして、ふっと体の力が抜けた。


…何やってんだ俺。


溜息と共にまたベッドに身を沈ませる。


反応しすぎだっての。


相手はかずなんだってば。


かずは…弟だろ。


そう心で呟いたと同時に再びドアの向こうで微かな音が聞こえ。


控え目なノックのあと、消え入りそうだけど確かに届いた声。


「…まーくん」


…っ!


その瞬間、どきんと心臓が打ちつけられて。


そのまま縫い付けられたように動けず返事も出来ないでいると。


カチャっと開いたドアから顔を覗かせたかずと、バッチリ目が合ってしまった。


「ぁ…寝てなかったんだ…」


"入ってもいい?"と一歩足を踏み入れたかずのその姿に、更に驚いて目を丸くしてしまい。


え、なんで枕持ってんの…!?

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