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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第5章 秘密の楽園 4

◆c


暗闇にぼんやりと浮かぶ天井のシミ。


小さい頃はこうして二人並んで、あの天井のシミが顔みたいだのなんだの言ってたっけ。


今となってはそんなシミの存在すら忘れかけていたというのに。


ぴったりとかずの体が密着した右半分。


一ミリも動かせないこの状態、縋れるのはそんな天井のシミにまつわるエピソードだけ。


さっきから全く治まりそうもない動悸のせいでうまく呼吸が出来ていない気がする。


不自然に息を止めてふぅーっと薄く息を吐き続けるのもそろそろ限界。


それに隣のかずから伝わる温もりや深く呼吸をする音がやけに耳に纏わり付いて。


きっとかずはもう寝てる。


だってスースー寝息が聞こえてんだ。


くそっ、俺の気も知らないでっ…


じんわりとした熱が寝入ってしまったかずの体温だと思ったら、何だか一人ドキドキしてるのがバカらしくなってきた。


…もういいや。
多分これはかずの気まぐれだ。


母ちゃんたちが居なくてちょっと昔を思い出しただけのこと。


一緒に寝るなんて別にどってこと…


相変わらずスースーと耳にこだまするかずの寝息。


こんな安らかな寝息なのに、近すぎるそれにまた良からぬ思考が巡ってきて。


搔き消すように思い切って寝返りを打つと、かずを背に壁を向いて溜息ひとつ。


マジでこんなんじゃ一睡もできねぇって…


更に長めの溜息をはぁっと吐いたその時、背中でもぞっと身動ぐ気配が。


そして次の瞬間、突然訪れた温もりに吐いた溜息を呑み込んだ。


…っ!


背中にぴったりとしがみつくように添えられたかずの体。


首の後ろに感じるかずの呼吸。


ふくらはぎの裏に触れるかずの細い脚。


かずっ…
どういうつもり…


バクバクと高鳴る心臓はもう暴れ出しそうで。


そんな俺の心臓は新たに訪れた感触で留めを刺されたように静止した。


んなっ…!


そっと腹に回されたかずの腕がぎゅっと俺のTシャツを握る。


そうして更に密着したかずと俺の体。


なんならちょっと首の後ろに顔を埋められてるような気すらするんだけど。


こんな急なトンデモ展開に頭からシュンシュン湯気が吹き出しそう。


いやもはや出てんじゃないかこれ。


そんな思考がぐるぐる廻る中、直に響いた殺し文句。


「…まーくん」

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