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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第6章 秘密の楽園 5

☆m


「もういい…」


微かに聞こえた声。


それと同時に目元を覆ったかずの腕に結局その瞳は見れぬままで。


だけど「ぐすっ…」と鼻を啜る音がして泣いているのだと分かった。


「……か、かず?」


呼び掛けてみても返事はなくてぐずぐずとした声が聞こえるだけ。


泣き真似じゃなさそうなかずの様子に先程までの憤りは綺麗サッパリ消えていって。


今やかずを泣かせてしまった罪悪感が胸の大半を占めている。


俺はかずの涙に弱いんだ…


キラキラと宝石のような雫が真っ白な肌を伝う。


擦ったせいで痛々しく赤らんだ目元。


頭を撫でながら「大丈夫だよ」と言ってやれば、唇をふるふると震わせて幼い日のかずは俺にしがみついてきた。


じゃあ今は…?


俺が泣かせてしまった時はどうしたらいい?


かずからしがみついてこない時にはどうやって慰めてやったらいいんだろう…


泣いているのに手も足も出せない。


できることと言えば名前を呼んでやるくらい。


だけど…


「もう…怒んないで…」


それに返ってきた涙交じりの弱々しい声。


聞いているこっちまで苦しくなるようなそれに一気に波が引いていく。


「彼女なんか作っちゃいやだよ…お願い、もう作らないで…」

「かず…?」

「なんで俺じゃだめなの?」


っ…!


なんで、って…


え、なんで?


カーテンから注ぐ月明かりに照らされ、かずの腕は真っ白に浮かんでいる。


それと同じくらいに俺の頭の中も真っ白。


シーツの上で顔を隠したままのかずを見下ろしながらかずの言葉を反復するだけ。


なんで…ってそもそもなんだ?


かずじゃだめな理由…?


それはかずが弟で、俺たちは男で…


ってあれ?


それってなんか違くない?


訳の分からない苛立ちや靄つきの中を今まで彷徨っていた。


ブラコンと言われて葛藤してきたのは何となく腑に落ちなかったからで。


その理由が今、見えた気がする。


「かずっ…」

「あ、ちょっとっ…!」


かずの腕を引き剥がし露わになった瞳は案の定涙で溢れていて。


濡れて束になった睫毛やら、こめかみへと流れた涙の筋やらが暗がりでも見て取れる。


そんなかずを前に抱く感情が昔とは明らかに違う。


ハッキリとそう気がついてしまった。

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