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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第2章 秘密の楽園 1

◆c


窓から注がれるそよ風も手伝って眠気に襲われかけた矢先、背中につんつんと何かが押し当てられて。


振り向けば、後ろの席の翔ちゃんがシャーペンでクイっと窓の外を指した。


少し後ろに傾いて窓の外を覗くと、グラウンドで体育の授業をしている生徒の群れが。


その中に見知った姿を見つけて、思わず小さく声を上げる。


「なぁアレ雅紀の弟だよな?全然似てねぇなお前ら」


机にうつ伏せこちらを見上げながらくっくっと笑うその顔は、明らかにバカにしたような感じで。


「かずは母ちゃん似、俺は父ちゃん似なの」

「ふぅーん。いやつーかさ、そのかずくんは部活入ってんの?」

「いやまだ…なんかに入るって言ってたけど」

「ふは、なんかって何だよ」


鼻で笑われながら突っ込まれ、言い返せない事実に口を噤む。


だってさ、そんなこと俺には話してくんないんだもん。


知りたいよ、俺だって。


もっとちゃんとかずと話したいのに。


「まだ決めてねぇんだったらさ、サッカー部どう?」

「えー翔ちゃんの後輩になんの?」

「んだよ、可愛がってやんのに。
あ、けどあんな感じじゃ運動部は無理か」


頬杖をついて楽しそうに視線を遣った先を辿れば、ちょうどかずがハードル走のスタートを切ったばかりで。


周りにやや遅れをとって一生懸命走る姿を、固唾を呑んで見守っていると。


「あ、こけた」

「っ、かずっ…!」


思わずガタッと立ち上がり、クラス中の視線を一斉に浴びてしまった。


先生からは叱られ、後ろの翔ちゃんからは笑いを堪えて見上げられ。


小さくなって静かに席に着くと、背後からボソッと呟く翔ちゃんの声。


「…お前もしかしてブラコン?」

「はっ?ちげーし!」

「こら相葉っ!」


また先生から怒鳴られ、今度はクラス中から笑われる始末。



そんなんじゃない。


俺はただかずの兄ちゃんとして、かずの傍に居てやりたいって思ってるだけ。


かずはそんな俺のこと…
どう思ってるかわかんないけどさ。

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