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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第2章 秘密の楽園 1

◆c


部室を後にする先輩と挨拶を交わし、タオルでごしごしと汗を拭う。


一応部活動推薦で入学した手前、二年生ながらエースとしてチームを盛り立てる役目を任されている俺。


今日も紅白戦で得点王になり、キャプテンからは来月の公式戦も期待してるぞと声を掛けられた。


体育館の片付けをしていた一年が戻ってくると、入れ替わりで部室を出て行く。


『お疲れー』と手を振りながら通り過ぎようとした時、一人の後輩が俺を呼び止めた。


「あ、先輩。かずが待ってましたよ」

「えっ?かず?なんで?」

「いや分からないですけど…昇降口のとこで」


そう言われピンと来てスマホを見れば、


『母さん今日遅くなるって。鍵持ってないから待ってる。部活終わったら連絡して』


そのかずからのメッセージに、急いで昇降口へ走った。



「かずごめん!今終わった!」


息を切らして駆け寄ると、弾かれたように顔を上げてこちらに振り向いたかず。


その顔が一瞬笑ったように見えたけど、すぐに口を尖らせた最近のスタイルになって口を開く。


「おせーよ。てか放課後すぐ送ったのに今見たの?」

「え?あぁ、いや掃除してたからさ…」

「は?なんかしたの?」


思いっきり眉間に皺を寄せて顔を覗き込まれ、さすがにかずのことで怒られたなんて言えなくて。


「…いいの!よし帰るぞっ」

「ねぇまさき、喉乾いた」

「駅で買ってやっから。ほら行こ」


そう笑いかければ、拗ねた顔のまま諦めて後ろをついてきた。



朝の満員状態が嘘のように空いた電車内。


隣に座るかずと俺の間には、微妙な隙間。


いやもちろんさ、ぴったり密着するなんておかしな話だけど。


けどこんなあからさまに間空けなくても良くない?


スマホを弄るフリしてちらっと横目でかずを覗き見る。


…あ、眠そう。


最近家でも遅くまで勉強してるもんな。


初っ端から置いてかれないように頑張ってんのかな…。


ガタゴトと一定のリズムを刻む中、隣のかずもそれに合わせてふらふらと頭が揺れ始めて。


通学カバンを抱き込んで俯くかずの寝顔は、昔からほんとに変わってない。

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