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僕ら× 2nd.

第9章 城 --Khs,Kn,R

その夜は、いつの間にか朝になり。

私、眠ったのかしら?
記憶がないってことは眠ったん、だよね?
みいちゃんと話してから、すぐに夜が明けた気がするなぁ。

と、変な心地に包まれながら、朝食を済ませて外に出る。

冷たく澄みきった空気は、肺にそのまま浸透してく。

私、今、遠い国に来てるんだなぁ。

白い山々が連なって、朝陽がピンクに反射して、まるでお伽噺の世界のような、そんな景色に息をのむ。

その昔、伊織君と、こんな写真集を見たことがある。
いつか一緒に行こうねって、彼が言っていたのを思い出し、胸がギュンと痛くなった。

私だけで来ちゃったよ…。

切なく痺れるその両手を、やっとの思いで動かして、私はその景色にシャッターをきった。

いつか、いつか伊織君に、思い出話ができることを願って…。

その上空で、ピチピチと可愛い声で小鳥がさえずり、私の麻痺は溶けていく。

みいちゃんは手鏡を取りだして、髪の乱れをチェックしていた。

そうだ、晄志君たちは…?
まだ、お部屋なのかな?と周りのクラスメイトを探す。

旅館の玄関口で、各クラスが座って集合するなか、先頭に立った先生が話しはじめた。

「あー、静かに。突然だけど、今日の自由行動は男女別々に動くことになったので、女子は決めた通りの観光をするように」

「えー?」と驚きの声もあがったけど、待っていても仕方がないとわかったので、各自クルマに乗りこんでいく。

え?晄志君たちと一緒にまわれないんだ。
ってことは、ちょっと待って?
私ったら、おひとり様?
運転手さんと観光ですかー?

と、私たちの前にも1台のクルマが止まる。

「おはよう」

運転席から軽やかに降りたち、後ろのドアを開けてくれる。
その人は。

私たちのリュックを持ち、座るように誘導した。

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