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地下アイドルの休日

第5章 沖縄珍道中

ちはるんがつまらなそうに溜め息を吐く。
いつの間にか山田くんとかなりフレンドリーな言い方になっている。

「ふつうは漫画やアニメのようにはいかないの」
とあやのんがツッコミを入れる。

でも、ちはるんはめげない。

山田くんは野球選手のくせにシャイだから声をかけなかったとか、お姫さまみたいな女のコに声をかけるのは男のコとしては勇気が要ることだけど、姫をゲットしたかったら勇気を出さなきゃとか、これは焦らす作戦か、あんまり待たせると他に行っちゃうよとか、いつの間にか山田くんがちはるんに惚れていてゲットする物語に話が変わっている。

「誰がお姫様だ、話が変わってるぞ、お~い」

とあやのんが呼びかけるが、ちはるんは完全に自分の物語の世界に浸っている。

明後日はまたキャンプを見学に行くから、山田くんはその時こそ勇気を出して姫をゲットしにアタックしなきゃとか、ラストチャンスだとか、どうせ姫のことが気になって練習もままならないんだから勇気を出しなさいとか、ちはるんの妄想はどんどん暴走する。

「お~い、戻って来~い、お~い」とあやのんが呼びかけるがちはるんはうっとりと自分の作り上げた妄想の世界に入り込んでいる。

「♪がんばれ がんばれドカベン 山田太郎♪」

「誰が山田太郎よ、違う違う」

あやのんがドカベンの歌を歌うとようやくちはるんが戻ってきた。

「そういえば、山田って人って赤が似合うよね」

山田選手のラッキーカラーが赤で今日も赤いタオルを持っていたことを思い出してあやのんはツボに入ってクスクスと笑う。

「違うから、笑点違うから、どうしてそう座布団運ぶ人に話を持っていこうとするかな」

とちはるんは膨れ顔をする。それを見てあやのんはペロっと舌を出して楽しそうに笑う。よかった、ちはるんが戻ってきた。

ちょっとお酒を買って帰って二次会はあやのんの部屋で部屋飲み。

歴女のあやのんは嬉々として琉球王国のことや、種子島に鉄砲が伝来して日本の歴史が変わったことや、西郷吉之助が奄美に流刑された時に支えてくれた二番目の妻愛加那との恋物語とか、沖縄やその周辺にまつわる歴史の話をする。

歴史にはあまり興味がないちはるんは退屈そうにしている。

「そういえば、せごどんって不思議よね。西郷隆盛の話なのに瀬古どんって・・瀬古って人はいつ出てくるのよ。それとも西郷から瀬古に改名する?」

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