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『untitled』

第3章 一線を、越える

「はぁ~美味しかったなぁ」

腹をスリスリと撫でながら、おぼつかない足取りのナリが気になりつつも会計をする。

「ご馳走さまでした」

さっと頭を下げて店を出た。

ここは隠れ家的な場所で通りからは逸れてる場所。

でも、大通りまでは歩かないと帰りの足がないのも事実で…

「おっと!きむらくぅーん!ご馳走さまでした」

フラっと体をもってかれそうになりながら俺に頭を下げて。

被ってきたキャップが落ちた。

「落ちたぁーアハハ!」

何が何でも面白くなっちゃうんだな、酔うと…

ちょいとめんどくさいタイプかな…なんて思っていた。

その間もナリはどんどん大通りに向かって歩いてく。
落ちたキャップを拾いナリ呼ぶ。

振り返り俺に手を振る。

「おい、転ぶぞ!」

大通りに出るところでナリにキャップを被せてやる。

酔ってるせいで、お目目、ウルウルで…

酔ってるせいで、お口もユルユルで…

酔ってるせいで、頬っぺたがピンクで…

「ったく…危ねぇだろ…」

なんで、こんな顔をするんだ?コイツはっ!

えぇ?

俺はノーマルだぞっ!!

自分に込み上げる煩悩を悟られまいと素っ気ない態度になってしまったようで…

「怒った?」

「はぁ? 」

「怒ってるんでしょ?」

「何、言ってんだよ…そんなこと…」

「だって、みんなそうなんだもん…俺、ちょっと酔うと絡んじゃうみたいで。気をつけてるんだよ?でも…今日、すごく楽しみだったから…」

ポロっとナリの目から溢れた涙。

「な、泣くなよ…」

「泣いてない…」

こんどは泣くのかよ~

コイツ、マジでめんどくせぇ~

でも、こうやって俺じゃない奴等にも絡んでるってことは…

このまま、ナリを………

俺の煩悩が一瞬、頭の中で映像化された。

「ダメだろっ!!!」

「何がっ?ごめんなさい!」

大きな声をだしたせいで、ますます怖がり泣くナリ。

仕方なく肩を抱いてやって、涙を拭ってやった。

相手が俺でよかったと思え。




ふと、視線を感じた。

反対側の道路でこちらを睨み付けるアイツと目があった。

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