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『untitled』

第3章 一線を、越える

腰に腕を回され、もたれながら歩くナリ。

その足取りは明らかに危なげで。

悪酔いしたんで…か…

悪酔いさせたの、俺、だよな?

このまま帰して大丈夫か?

ナリを介抱する松本の横顔は同じグループの仲間として心配してる、というだけか?

頭の中にたくさんの疑問が浮かんでくる。

だんだん深くなる夜の闇に二人が吸い込まれていく。

俺はナリたちと別れたところから一歩も動けずにただ二人の背中を見てる。

松本を見上げるナリが唇を突き出した。

「…ぇ…」

頭を撫でる松本。

そして、松本がこっちを見た。

違う。

俺を見た。

松本は俺を見てる。

さっき、通りの反対側から俺を睨み付けてたあの瞳で、同じように俺を見てる。

なんて、顔すんだよ。

俺、先輩だぞ。

そして、笑った。

なんて、顔すんだよ。

ナリの顎に指をかけ、松本はナリと唇を重ねた。

そこだけ、スローモーションがかかったように。

まるで、舞台でも見てるようだ。

夜の闇に街頭だけの舞台。

そのキスはあまりに自然で。

慣れてる、と感じた。

一瞬、離れた唇。

ナリは松本の腰に腕を回した。

そして、再び重なる唇。

音は聞こえないけどかなり深いんだろう。

ナリの足が震えてる。

キスを受けるナリの顔はとても、綺麗で。

なんて、顔すんだよ。

二人の舞台に見入っていた俺のポケットからその舞台にそぐわない着信音が。

なんだよっ!!

ビビったぁ~

「あ、はい?あ、あぁ…櫻井?」

『今日は二宮がお世話になりまして…』

事務所を通じ、俺の携帯番号を聞いたらしい。

なんなんだ。

こいつら…

目線を二人に戻した。

二人はもう居なかった。

夜の闇に街頭だけの舞台。

そこにはまだ、二人がいたときの熱が流れてるように感じた。

そして、その熱は俺の身体をも熱くさせている。

「…お前ら…なんなんだよ…」

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