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『untitled』

第3章 一線を、越える

「これからも、二宮のことよろしくお願いします。はい、失礼します」

通話の切れたスマホの画面を見つめる。

「やるな…」

あの日、電話でニノと食事の約束をした木村くんの声は弾んでた。

そして、それが今日だった。

どこに行くんだ?と、問いつめようかとも思った。

だけど、そんなカッコ悪いこと出来ない。

だから、牽制をかける意味であの時間にわざわざ電話をかけたんだ。

なのに…

一歩、遅かった。

電話に出た木村くんは明らかに俺に不信感を抱いていた。

そりぁ、そうだ。

たいした共演もないのに電話番号を知ってて、メンバーの食事のお礼を言うために連絡してるんだから。

だけど、それだけじゃなかった。

『松本とバッタリ会って…』と言った。

不信感だけじゃないと感じたのはこれが理由だ。

メンバーに対する俺らの態度に“恐怖”をも感じたのかもしれない。

『今度は全員、誘ってください!』なんて言ったけど…

「ないか…」

ニノを“ナリ”と呼ぶ木村くん。

後輩を純粋に可愛がっているんだと。

主演という立場もあるのも分かってる。

それに、木村拓哉だ。

俺たちが憧れてる、木村拓哉なんだ。

だけど、彼も男だ。

欲に流されそうな時だってあるだろう。

それが、後輩である同性だとしても、だ。

俺たちがどんなに牽制をかけても、みんながニノに近づいてくる。

その度にきつく言い聞かせてきてるのに、これだ。

「今日は松潤の勝ち、か…」

マネージャーから送られてきたメンバーのスケジュールを見る。

まだまだ、気持ちが落ち着くことはなさそうだ。

今日一日、気が気じゃなくて、仕事が手につかなかった。

「ったく…やんなくちゃ…」

資料を広げた。

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