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『untitled』

第5章 赤いシクラメン

“スキャンダル”

もし、潤が駆け出しの俳優だったら、それは名前を売るのに一役、買っていたかもしれない。

だけど、今の潤にそんなものは必要ない。

潤に買い物を頼まれてコンビニに来た。

「フリスクと、水と…」

雑誌コーナーに潤が表紙を飾るものがいくつかあってその一つを手に取った。

ー360゜カッコいい男ー

そんなタイトル。

そうなんだ。

上から見ても、下から見ても。
水を飲む姿も、本を読む姿も。

うちの事務所に入ったときから、所作は綺麗だった。家庭環境の良さがそこから見てとれた。

挨拶の基本から教えなければならないことが圧倒的に多いが潤は違った。

俺は基本的に事務所に所属している俳優たちとは
線を引いてきた。

対等でいい、なんて言ってくれる人もいるが俺は支える側の人間だから誰に対しても敬語を使うようにしている。

だけど、潤は…
なにか、最初から違った。

それが何かわからないけど、気がついたら俺は潤のマネジャーをやりたいと自ら申し出ていた。

そして、心を奪われていた。

らしくないな…
こんな昔のことを思い出すなんて…

潤の好きなチョコレートをカゴに入れてレジに並んだ。



「買ってきました」

車に戻り後部座席に袋を渡す。

「サンキュー♡あ、チョコ♡」

こうやって、無邪気に歯を見せて笑う顔は幼く見える。

つい見惚れていたらミラー越しに目が合った。

猛烈に恥ずかしくなって目を背ける。

「もっと、見たっていいんですけど?」

「何を言ってるっ!!」

「俺たちだけだよ?」

「だから、なんです?」

「こっち、向けって!」

「…」

「ねぇ!」

「…」

「ねぇ!」

「もぉ!なっ!んっ…」

しつこいなぁって怒鳴ってやろうとしたら…

唇を塞がれた。

クチュと水音がして、俺の舌を絡めようしたら唇を離された。

濡れた赤い唇。

俺の唇も潤と同じなのか。

「あとで…ね?」

煽るだけ、煽って潤はイヤホンをしてアイマスクをして背もたれに身を預けた。

ミラーに写る俺の顔。

「…っ!!!」

なんて顔してるんだ…

ズレた眼鏡を直してスーツの袖で唇を拭った。

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