氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第6章 運命を賭ける瞬間(とき)
ヨンセはトンジュに鷹揚に頷いて見せ、サヨンに安心させるように微笑みかけた。
しばらく沈黙が流れた。
ヨンセは大きく息を吸い、ふいに浮かんだ涙に眼を細めた。
「それで、祝言はいつにするつもりだ」
「お父さま」
サヨンはかすかな期待を込めてヨンセの顔を見つめる。
ヨンセは早口に言った。
「中途半端なままの関係では、世間に対する体裁も悪い。祝言も挙げていないのに、そなたとトンジュを一つ屋根の下に住まわせることはできないからな」
怒ったような口調とは裏腹に、父の頬が嬉しげに緩んでいる。
「何代も続いてきたコ商団も私の代で終わりかと思っていたが、そなたが良い婿を連れてきたお陰で、思いがけず優れた後継者を得ることができた」
ヨンセはトンジュに向かって言った。それは長年に渡って漢陽一の商人との評判を守り続けてきた大商人ならではの言葉であった。
「トンジュ、商いの道は机上の学問とは違って、現実的で厳しいぞ。だが、幼い頃に見せたそなたの頑張りをもってすれば、克服することは不可能ではない。心して学びなさい」
「はい」
トンジュが畏まって頭を下げる。
「そなたの奴婢証文は処分する。これで、そなたは晴れて自由の身となった」
傍らのトンジュが小さく息を呑み、眼を潤ませた。
「大行首さまのご恩は一生涯忘れません」
ヨンセは大きく頷いた。
「その気持ちを忘れず、コ商団を盛り立てていってくれ」
ややあって、ヨンセは小さな声で言った。
「娘を頼んだぞ」
「はいッ」
先刻より更に威勢の良い返事が返ってきて、ヨンセは薄く微笑する。
傍らで父と良人のやりとりを耳にしながら、サヨンの眼尻にかすかな涙が滲んだ。
しばらく沈黙が流れた。
ヨンセは大きく息を吸い、ふいに浮かんだ涙に眼を細めた。
「それで、祝言はいつにするつもりだ」
「お父さま」
サヨンはかすかな期待を込めてヨンセの顔を見つめる。
ヨンセは早口に言った。
「中途半端なままの関係では、世間に対する体裁も悪い。祝言も挙げていないのに、そなたとトンジュを一つ屋根の下に住まわせることはできないからな」
怒ったような口調とは裏腹に、父の頬が嬉しげに緩んでいる。
「何代も続いてきたコ商団も私の代で終わりかと思っていたが、そなたが良い婿を連れてきたお陰で、思いがけず優れた後継者を得ることができた」
ヨンセはトンジュに向かって言った。それは長年に渡って漢陽一の商人との評判を守り続けてきた大商人ならではの言葉であった。
「トンジュ、商いの道は机上の学問とは違って、現実的で厳しいぞ。だが、幼い頃に見せたそなたの頑張りをもってすれば、克服することは不可能ではない。心して学びなさい」
「はい」
トンジュが畏まって頭を下げる。
「そなたの奴婢証文は処分する。これで、そなたは晴れて自由の身となった」
傍らのトンジュが小さく息を呑み、眼を潤ませた。
「大行首さまのご恩は一生涯忘れません」
ヨンセは大きく頷いた。
「その気持ちを忘れず、コ商団を盛り立てていってくれ」
ややあって、ヨンセは小さな声で言った。
「娘を頼んだぞ」
「はいッ」
先刻より更に威勢の良い返事が返ってきて、ヨンセは薄く微笑する。
傍らで父と良人のやりとりを耳にしながら、サヨンの眼尻にかすかな涙が滲んだ。