氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第6章 運命を賭ける瞬間(とき)
後年、トンジュは義父の跡を受け、コ商団の大行首となった。その傍ら、比類なき高度な薬学の知識を活かし、独自に薬屋を開いた。本来の商団の事業だけでなく、新しく開いた薬屋の方も順調に伸び、後には都中に数店の支店を出すほどにまでなった。
むろん、出発点となった始まりの小さな店を出す資金となったのは、サヨン(世間的にはトンジュが得ことになっている)が草鞋を売って得た黄金である。
時は更に流れ、トンジュとサヨンは息子が一人前になると、コ商団と薬屋を息子夫婦にゆずった。ちなみに、夫婦の間には二男一女が生まれている。トンジュたちは一番下の息子を連れて都から離れたあの懐かしい山上に戻った。やがて、その息子が山茶花村の娘を嫁に迎え、話を聞いた人々がはるばる山上に移り住んできて、いつしか村ができた。
一時は滅びた幻の村が甦ったのだ。
かつての古き良き時代のように、森の奥の小さな村では、駆け回る子どもたちの姿があちこちに見かけられ、女たちの笑い声や男たちが酒を飲んで陽気に歌う声が響くようになった。
ただ一つ違っていたのは、トンジュたちが森の禁忌を破り、森を抜けて麓と山上を行き来するすべを皆に教えたことであった。そのため、魔の森は恐怖や畏怖の対象ではなくなり、人々に恵みを与える祝福の森となった。
今では誰もが山上と麓を自在に行き来できるし、麓の人がしょっちゅう山上の村を訪ねてきて、交流が盛んに行われている。
義承大君の謀反は結局、失敗に終わった。あろうことか、大君が最も信頼していた沈清勇が大君を裏切り、直前に県監に密告していたのである。大君は兵を挙げることすらできず、囲まれた役所の兵たちに取り押さえられた。
大君は謀反発覚後、半年で国王から毒杯を賜り、服毒死させられた。大君の訃報を聞いた時、サヨンは心が痛んだ。
あの夜―無謀にも沈清勇の屋敷に乗り込んでいった日、大君がサヨンの話を聞いてくれなければ、その後のサヨンとトンジュはなかった。しかも、大君は約束したよりもはるかに多い黄金を褒賞として与えてくれさえしたのだ。
国を揺るがした重罪人とはいえ、サヨンにとっては紛れもなく恩人と呼べる人であった。(了)
☆つたない作品を最後までご覧いただき、ありがとうございました☆―作者
むろん、出発点となった始まりの小さな店を出す資金となったのは、サヨン(世間的にはトンジュが得ことになっている)が草鞋を売って得た黄金である。
時は更に流れ、トンジュとサヨンは息子が一人前になると、コ商団と薬屋を息子夫婦にゆずった。ちなみに、夫婦の間には二男一女が生まれている。トンジュたちは一番下の息子を連れて都から離れたあの懐かしい山上に戻った。やがて、その息子が山茶花村の娘を嫁に迎え、話を聞いた人々がはるばる山上に移り住んできて、いつしか村ができた。
一時は滅びた幻の村が甦ったのだ。
かつての古き良き時代のように、森の奥の小さな村では、駆け回る子どもたちの姿があちこちに見かけられ、女たちの笑い声や男たちが酒を飲んで陽気に歌う声が響くようになった。
ただ一つ違っていたのは、トンジュたちが森の禁忌を破り、森を抜けて麓と山上を行き来するすべを皆に教えたことであった。そのため、魔の森は恐怖や畏怖の対象ではなくなり、人々に恵みを与える祝福の森となった。
今では誰もが山上と麓を自在に行き来できるし、麓の人がしょっちゅう山上の村を訪ねてきて、交流が盛んに行われている。
義承大君の謀反は結局、失敗に終わった。あろうことか、大君が最も信頼していた沈清勇が大君を裏切り、直前に県監に密告していたのである。大君は兵を挙げることすらできず、囲まれた役所の兵たちに取り押さえられた。
大君は謀反発覚後、半年で国王から毒杯を賜り、服毒死させられた。大君の訃報を聞いた時、サヨンは心が痛んだ。
あの夜―無謀にも沈清勇の屋敷に乗り込んでいった日、大君がサヨンの話を聞いてくれなければ、その後のサヨンとトンジュはなかった。しかも、大君は約束したよりもはるかに多い黄金を褒賞として与えてくれさえしたのだ。
国を揺るがした重罪人とはいえ、サヨンにとっては紛れもなく恩人と呼べる人であった。(了)
☆つたない作品を最後までご覧いただき、ありがとうございました☆―作者