
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第2章 氷の花
「ただ先刻の話の中で、一つだけ私にも理解できた部分があるわ。獲物というのは私のことなのね。そして、狩人というのは他でもないトンジュなのでしょう? そういう言い方は好きではないし、止めて欲しいの。私は動物ではないし、ましてや、あなたに仕留められた獲物なんかではないもの」
意外だったのは彼があっさりと退いたことだった。
「判りました。今の言い方が気に障ったのなら、謝ります。お嬢さまは、今はまだ判らなくて良いんです。そのうち、嫌でも判るようになりますから」
〝俺が教えてあげますよ〟と、トンジュはまたも意味不明の言葉を残し、再び歩き始めた。
更にいかほど歩いただろうか。
サヨンの体力も気力も既に極限状態を大きく超えていた。
すぐ手前を歩くトンジュが急に立ち止まったため、サヨンは危うく大きな背中にぶつかるところだった。抗議しようとしたその時、トンジュが振り返った。
「ここです」
トンジュの指した方向を何気なしに眺め、サヨンは思わず声を上げそうになった。
「これは―」
眼前にひろがるのは見渡す限りの氷の花だった。いや、正確にいえば何かの植物が枯れた跡に雪が降り積もり、それがあたかも氷の花が咲いているように見えるのだ。
「これは何なの?」
サヨンは今し方の確執も忘れ、つい訊ねずにはいられなかった。
それほどまでに見事というか圧巻としか形容のできない風景が今、この瞬間、サヨンの前にひろがっている。
「氷(ヒ)華(ファ)です」
「氷華?」
聞き慣れないというより、初めて聞く名前である。鸚鵡返しに繰り返すと、トンジュはうっすらと笑みを浮かべた。
「お嬢さまには初めて聞く言葉でしょうね。俺の生まれ育った地方に古くから伝わる言葉とでもいえば良いのかな。文字どおり、氷の花ですよ」
「氷の―花」
意外だったのは彼があっさりと退いたことだった。
「判りました。今の言い方が気に障ったのなら、謝ります。お嬢さまは、今はまだ判らなくて良いんです。そのうち、嫌でも判るようになりますから」
〝俺が教えてあげますよ〟と、トンジュはまたも意味不明の言葉を残し、再び歩き始めた。
更にいかほど歩いただろうか。
サヨンの体力も気力も既に極限状態を大きく超えていた。
すぐ手前を歩くトンジュが急に立ち止まったため、サヨンは危うく大きな背中にぶつかるところだった。抗議しようとしたその時、トンジュが振り返った。
「ここです」
トンジュの指した方向を何気なしに眺め、サヨンは思わず声を上げそうになった。
「これは―」
眼前にひろがるのは見渡す限りの氷の花だった。いや、正確にいえば何かの植物が枯れた跡に雪が降り積もり、それがあたかも氷の花が咲いているように見えるのだ。
「これは何なの?」
サヨンは今し方の確執も忘れ、つい訊ねずにはいられなかった。
それほどまでに見事というか圧巻としか形容のできない風景が今、この瞬間、サヨンの前にひろがっている。
「氷(ヒ)華(ファ)です」
「氷華?」
聞き慣れないというより、初めて聞く名前である。鸚鵡返しに繰り返すと、トンジュはうっすらと笑みを浮かべた。
「お嬢さまには初めて聞く言葉でしょうね。俺の生まれ育った地方に古くから伝わる言葉とでもいえば良いのかな。文字どおり、氷の花ですよ」
「氷の―花」
