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氷華~恋は駆け落ちから始まって~

第2章 氷の花

「判ったでしょう。私はあなたが思っていたような女ではないわ。この先、あなたが私に何を命令しようと、大人しく従うような従順で素直な娘ではないの。そんな女人が好みなら、さっさと私なんか放っぽり出して理想の女を見つけた方が賢明というものよ」
「あなたがこんなに面白い女(ひと)だとは」
 トンジュはまだ笑いながら、呟いた。
「女人は見かけだけでは判断できませんね」
「でしょ? 失望したわよね?」
 サヨンが勢い込んで言うと、トンジュは笑顔になった。
「まさか。その正反対ですよ。今のお嬢さまは、花の蕾だ。一体、何のどんな花が咲くのか判らない、そんな気がします。今はこんな面を見せたけれど、次の瞬間にはまた全く俺の知らなかった一面を見せてくれるような期待感を感じますね」
 サヨンの愛らしい面がさっと翳った。
「じゃあ、あなたはまだ私を自由にしてくれるつもりはないのね」
 それには応えず、トンジュは笑みを浮かべた
「お嬢さんはまだ男という生き物をよくご存じない。男にとっては暴れ馬を手なずけるのもまた一興なんですよ」
「―」
 小首を傾げるサヨンをトンジュは満足げに見た。
「それに、一つ付け加えるとすれば、何も女を大人しく従わせる方法は一つだけではないんです。手負いの獣を服従させようと責め苦を与えれば、獣は大人しくなるどころか、余計に刃向かってくる。だが、裏腹に心地よさを与えてやれば、どうでしょうね。利口な狩人というものはけして獲物を必要以上に傷つけないものです。虐げるよりも優しくしてやれば、獲物だって本能的に従うようになっているのですよ」
「あなたの話は訳の判らないことばかりね。私には残念ながら、何の話なのか理解できないわ」
 サヨンが首を振る。
 トンジュは破顔した。
「今はそれで良いんです。お嬢さまには俺の期待を良い意味で裏切られましたが、その点は俺の見込みどおりだった」
 サヨンはきついまなざしでトンジュを見た。

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