氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第3章 幻の村
「山を下りるの?」
サヨンは眼を丸くした。
「はい、そろそろ一度町に出て、纏まった食糧やら衣糧やらを買い足しておかないとなりませんから。まだやっと二月の終わりです。寒さはこれからも長い間、続きますよ」
トンジュが話している間に、サヨンも食べ終えた。慌てて自分の器と木匙を持ち、立ち上がる。
「あ、今朝くらいは私が洗うから、トンジュは出かけるなら、出かけてちょうだい」
「良いですよ。町に行って帰るくらい、別にたいしたことではないんです。俺がやりますから、サヨンさまは休んでいて下さいね」
「大丈夫だってば。器も匙も鍋も割れ物じゃないから、落としたって平気よ」
実のところ、食事の支度だけでなく、後片付けまでトンジュが手際よくこなしてしまうのだ。
「おや、俺がさんざん苦労して作った木彫りの器を二度、真っ二つにしたのは、どこの誰でしたったけ。普通、木なんてものは割れないはずなのに、よほど強く落としたんでしょうね」
悪戯っぽく言われ、サヨンはむうと頬を膨らませた。
「トンジュの意地悪」
フンとそっぽを向くサヨンの頬をトンジュが人差し指でつついた。
「そんなにほっぺたを膨らませていては、元に戻らなくなりますよ。そういえば、サヨンさまの可愛らしい頬がいつもより随分と膨れているような」
真面目に首を傾げて見せるのに、サヨンは蒼白になった。
「ほ、本当? 本当に頬がいつもより膨れている?」
サヨンは蒼くなって自分の両頬を手のひらでさすっている。トンジュの表情が必死に笑いをかみ殺しているのにも気付かない。
とうとう彼が堪えきれず笑い転げ出した時、漸く騙されているのだと悟った。
「酷い。トンジュは本当に本当に意地悪ね。ううん、そんな言葉じゃ足りないわ。そうね、トンジュみたいなのをイケズというのよ」
トンジュの眼が愉快そうにきらめく。
「イケズ?」
「そう、透かしてる癖に、実は物凄ーく性格が悪かったりする人のことをイケズというのよ」
トンジュがわざとらしい溜息をついた。
サヨンは眼を丸くした。
「はい、そろそろ一度町に出て、纏まった食糧やら衣糧やらを買い足しておかないとなりませんから。まだやっと二月の終わりです。寒さはこれからも長い間、続きますよ」
トンジュが話している間に、サヨンも食べ終えた。慌てて自分の器と木匙を持ち、立ち上がる。
「あ、今朝くらいは私が洗うから、トンジュは出かけるなら、出かけてちょうだい」
「良いですよ。町に行って帰るくらい、別にたいしたことではないんです。俺がやりますから、サヨンさまは休んでいて下さいね」
「大丈夫だってば。器も匙も鍋も割れ物じゃないから、落としたって平気よ」
実のところ、食事の支度だけでなく、後片付けまでトンジュが手際よくこなしてしまうのだ。
「おや、俺がさんざん苦労して作った木彫りの器を二度、真っ二つにしたのは、どこの誰でしたったけ。普通、木なんてものは割れないはずなのに、よほど強く落としたんでしょうね」
悪戯っぽく言われ、サヨンはむうと頬を膨らませた。
「トンジュの意地悪」
フンとそっぽを向くサヨンの頬をトンジュが人差し指でつついた。
「そんなにほっぺたを膨らませていては、元に戻らなくなりますよ。そういえば、サヨンさまの可愛らしい頬がいつもより随分と膨れているような」
真面目に首を傾げて見せるのに、サヨンは蒼白になった。
「ほ、本当? 本当に頬がいつもより膨れている?」
サヨンは蒼くなって自分の両頬を手のひらでさすっている。トンジュの表情が必死に笑いをかみ殺しているのにも気付かない。
とうとう彼が堪えきれず笑い転げ出した時、漸く騙されているのだと悟った。
「酷い。トンジュは本当に本当に意地悪ね。ううん、そんな言葉じゃ足りないわ。そうね、トンジュみたいなのをイケズというのよ」
トンジュの眼が愉快そうにきらめく。
「イケズ?」
「そう、透かしてる癖に、実は物凄ーく性格が悪かったりする人のことをイケズというのよ」
トンジュがわざとらしい溜息をついた。