氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第3章 幻の村
「仮にもコ商団の大行首コ・ヨンセさまのご息女が使うような言葉ではありませんね。良いですか、良家の令嬢は下品な言葉は使わないものですよ。一体、どこでそんないけない台詞を憶えたのですか?」
半ば本気半ば真剣に滔々と述べる彼を見ていると、どうも自分より一歳年下だとは思えないサヨンである。
サヨンがお嬢さま育ちの世間知らずだからということもあるだろうが、世慣れたトンジュの方がよほど年上のように思えた。
「あら、トンジュが私に教えてくれたじゃない?」
サヨンはうつむき、わざと小さな声で言ってやる。
「え、俺がお嬢さまにそんなことを言いましたか!?」
「ええ、言いましたとも。あなた、自分で言っておきながら、憶えてないの? 都にいるときに、色町の妓房へ上がって、妓生から直接教わったとか何とか。見世の名前は、そうね、確か―」
いつも冷静で落ち着き払っているトンジュらしくもなく、慌てている。サヨンは内心、ほくそ笑んだ。
そっとトンジュの様子を窺ってみる。
と、トンジュが見事に罠に填った。
「翠(チェイ)月(ウォル)楼(ヌ)ですか?」
途端にサヨンはむくれる。
「なに、トンジュはその若さで妓房に行ったことがあるっていうの!? 大体、あなたは屋敷中でも評判の堅物だったはずよ。その真面目なあなたがどうして妓房の名前なんて知ってるのよ」
ムキになって言い募るサヨンに、トンジュがニヤリと笑った。
「ああ、そういうことですね」
「何がそういうことなのよ? 勝手に一人で納得しないで」
「つまり、サヨンさまは妬いてるんだ」
「なっ、何を言うの? 馬鹿なことを言わないでちょうだい。あなたが妓生とどれだけ仲好くしようが、私には関係ないことだわ。失礼しちゃうわね。トンジュが妓房に上がったくらいで、どうして私がいちいち嫉妬しなければ駄目なの」
サヨンは思い切り膨れっ面をして、プイとそっぽを向いた。トンジュをまんまと填めとやろうと目論んだものの、逆に彼に仕返しされる羽目に陥っている。
からかわれているのだとは判らないのだ。
半ば本気半ば真剣に滔々と述べる彼を見ていると、どうも自分より一歳年下だとは思えないサヨンである。
サヨンがお嬢さま育ちの世間知らずだからということもあるだろうが、世慣れたトンジュの方がよほど年上のように思えた。
「あら、トンジュが私に教えてくれたじゃない?」
サヨンはうつむき、わざと小さな声で言ってやる。
「え、俺がお嬢さまにそんなことを言いましたか!?」
「ええ、言いましたとも。あなた、自分で言っておきながら、憶えてないの? 都にいるときに、色町の妓房へ上がって、妓生から直接教わったとか何とか。見世の名前は、そうね、確か―」
いつも冷静で落ち着き払っているトンジュらしくもなく、慌てている。サヨンは内心、ほくそ笑んだ。
そっとトンジュの様子を窺ってみる。
と、トンジュが見事に罠に填った。
「翠(チェイ)月(ウォル)楼(ヌ)ですか?」
途端にサヨンはむくれる。
「なに、トンジュはその若さで妓房に行ったことがあるっていうの!? 大体、あなたは屋敷中でも評判の堅物だったはずよ。その真面目なあなたがどうして妓房の名前なんて知ってるのよ」
ムキになって言い募るサヨンに、トンジュがニヤリと笑った。
「ああ、そういうことですね」
「何がそういうことなのよ? 勝手に一人で納得しないで」
「つまり、サヨンさまは妬いてるんだ」
「なっ、何を言うの? 馬鹿なことを言わないでちょうだい。あなたが妓生とどれだけ仲好くしようが、私には関係ないことだわ。失礼しちゃうわね。トンジュが妓房に上がったくらいで、どうして私がいちいち嫉妬しなければ駄目なの」
サヨンは思い切り膨れっ面をして、プイとそっぽを向いた。トンジュをまんまと填めとやろうと目論んだものの、逆に彼に仕返しされる羽目に陥っている。
からかわれているのだとは判らないのだ。