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氷華~恋は駆け落ちから始まって~

第4章 涙月

サヨン、俺はお前が思っているほど善人じゃない。俺がお前を連れ出したのは、最初から、これが目的だ。お前を自分のものにするために、俺はすべてを棄て生命さえも賭けた。甘い台詞に惑わされ、住み慣れた家を出て、のこのこと付いてきたことを今こそ後悔するが良い」
 トンジュの言葉が終わらない中に、熱くて大きな塊が秘所に押し当てられるのが判った。
「え、なに―」
 呟きは、やがて細い悲鳴に代わり、下半身を灼けつくような激痛が襲った。狭い場所を無理矢理押し広げられているような感覚があり、鋭い痛みはのしかかったトンジュが動く度に更に増していく。
 胎内に何か大きな異物が侵入し、徐々に自分を浸食していっているのがありありと判った。自分という一人の人間を男が食い尽くそうとしている―、しかも胎内深くを。
 まるで我が身の一部がトンジュに支配されてしまいそうで。サヨンは恐怖と苦悶に喘いだ。痛みもさることながら、自分の身体の中に他人が入っていることそのものが、サヨンに圧倒的な恐怖を与えた。
 予想以上の衝撃的な体験に硬直している間にも、トンジュは身体を前後に動かしつつ、ゆっくりとサヨンの奥深くへと押し入ってくる。初めて男を受け入れるサヨンを慮ってのことだったが、サヨンが気づくはずもない。
 トンジュの動きが止まった。
 サヨンは何事かとトンジュを見た。これで、もうこの辛い義務からも解放されるのだ。微かな期待を込めて見上げた彼女に、トンジュが微笑みかけた。
 その笑顔は、サヨンがかつて見たことがないほど優しいものだ。
「サヨン、力を抜いて」
 サヨンは愛らしく首を傾げた。トンジュが愛しくて堪らないというようにサヨンの髪を撫でる。
「これからもう少し痛くなるかもしれない。初めてのときは、あまり力を入れすぎない方が楽に終わる。できるだけサヨンを苦しませたくないから、俺の言うとおりにして」
 何だかよく判らない台詞ではあったが、トンジュが自分のためを思いやってくれているのだとは理解できた。
「あなたの言っている意味は判るんだけど、実際にどうすれば良いのか判らないの」
「身体の力を抜くんだ。何も考えずに俺に任せてくれ」

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