恋人⇆セフレ
第10章 真と偽
「このコンビを見るのは久し振りだな」
ニコニコと嬉しそうに目の前で笑うのは、高校時代の恩師である瀬田だ。
記憶にある顔よりも目尻に皺が増え、親しみやすい顔がより柔らかくなった。怒ると鬼のように怖いとは有名な話だったが、良い先生には違いない。
俺はチラ。と無表情の真木を横目で見てから、にこやかな笑顔を貼り付けて先生に握手を求めた。
「瀬田先生お久し振りです。今日は無理言ってすみません」
「なんだ橘。随分丸くなったな」
「あれ、昔と変わらないはずですが」
「どの口が言ってるんだ。ま、元気そうで良かったよ。今日は話を通してるから好きなところを回ってくれ」
かつて手を焼いていた生徒2人が夢を叶えているのが嬉しいらしい瀬田は、ほら。と入り口の扉を開けて俺たち2人を迎え入れてくれた。
懐かしい香り。空気。
振り返れば、祝日だと言うのに朝から部活に勤しむ生徒たち。
全部全部懐かしい。
なのに気持ちは複雑で、無理やり上げた口角がひきつっている。
ーーーあの頃は真木と長く過ごせる学校が待ち遠しくて堪らなかったのに。
「行きますか」
「ああ」
こいつとくぐる学校がこんなに恨めしいと思う日が来るなんて、あの頃の俺は思いもしないだろうな。
「なんだお前ら、喧嘩でもしてるのか?」
昔から察しのいい瀬田は、ぎこちない俺らに気付いて怪訝そうな顔を浮かべるが、得意な笑顔で「今は仕事中なので」と誤魔化しておいた。
内心マグマが噴火しまくってるが、俺の表面の岩盤が硬いことを真木は感謝をするべきた。