恋人⇆セフレ
第10章 真と偽
結局あの後、俺が寝るまで帰ってこなかったから、真木が部屋に来たのは夜中だったらしい。
そのせいか今も眠そうにしているが、さっさと取材を終えてもらう他ない。
つーか、学校の俺らの思い出って言っても動き回ることなかったから少ないし、あんま時間かからない気がするけど…。
「行くか」
そんなことを思いつつ、「どこから行きますか?」と声をかけようとした俺よりも先に、真木が迷いのない足取りで目の前を歩き出した。
「ーーー…」
続けて、背筋の伸びた広い背中を追いかけるように自然と俺も歩き出す。
ジクジクと蝉が鳴き、夏特有のむわっとした空気なのに、俺たちの間を漂う空気は真冬で、大風邪を引きそうだ。
仕事はきちんとする。朝起きた時から決心していたが、今すぐ逃げ出したくて堪らない。
「ここ、志乃が鍵を落とした所だな」
と、黙り込んでいた真木が突然そう言って立ち止まった。
思わず顔を上げると、今朝から合わなかった切れ長の瞳とかち合って、その瞬間にぶわりと懐かしい記憶が舞い戻る。
「ーーそういえば、そうでしたね」
そう。真木との出会いは、俺が落とした鍵がきっかけだった。
すれ違いざまに、「おい」とぶっきらぼうに声をかけられ、腕を掴まれた時は喧嘩を売られたのかと短気な俺は思ったけれど。
上から見下ろす顔の精巧さに息を呑み、「鍵。落としたぞ」と無骨な掌に小さくあった鍵を見て、笑ってしまったのを覚えている。