恋人⇆セフレ
第3章 素直に。
「いらっしゃいませ。いつもので宜しいですか?」
「…ん」
いつもの朝。いつもと同じ珈琲。いつもと同じ笑顔。
ただ違うのは、眩しいくらいの笑顔を浮かべるその頰が、赤く腫れ上がっていることだ。
「その…悪い。頰腫れてる…」
痛々しいそれをみて、罪悪感で顔が歪む。
何故ならその腫れた頰は、昨日我に返った俺が殴ってしまったからだ。
それなのに、男は痛みなんかどうでもいいかのような顔で珈琲を淹れている。
「それは昨日散々聞かされましたよ。気にしないでください。俺が不意打ちでキスしたんですから」
「ばっこんな所でそんなワードを出すな!」
慌てて小声で叫ぶと、「ごめんなさい」と笑顔で謝るこいつ。全く油断も隙もならないし、俺が怒ってること分かってるのか?!
こっちはハラハラしてるっていうのに、目の前のコイツは何が楽しいのかニコニコして俺を見てるし、すごく居た堪れない。
「何でそんなに笑顔なんだよ」
「理由なんて志乃さんしかないじゃないですか」
「はあ?」
昨日教えたばかりの名前をさらっと言った男は、続けて口を開く。
「だって昨日の朝、俺が余計なこと聞いたからもう来てくれないかもと思ってたのに来てくれたし、こうして砕けた口調で喋ってくれるのも嬉しいし、名前を呼んでも怒らないのも嬉しいし、不機嫌そうな顔を見せてくれるのも「分かった、もういい」
「ええ?まだあるのに」
煩い、ずっと聞いてたら珈琲が冷めそうだ。
というかなんでこいつはこんな恥ずかしいことをツラツラと並べられるのかわからない。
溜息を盛大にだして、白い湯気が揺蕩う珈琲を受け取る。