恋人⇆セフレ
第11章 空白
志乃さんが姿を消して数ヶ月が経とうとしていた。
今でも面影を探すけれど、いつのまにか志乃さんの部屋は空っぽになっていて、連絡先も変えてしまったらしい。なんの手がかりも掴めぬまま、肌寒い季節を迎えてしまった。
「諦めが悪いな、俺も」
は、と自嘲気味の笑いが溢れる。
もう繋がることのない電話番号を眺めて、何分経ったのか。
というより、この行動はもう何度目か。
つまりはそういうことだと分かっているのに、まだ志乃さんを待ちたい自分がいる。
なんで、何も言わずにいなくなっちゃったの。
「藤、また携帯見てる」
「東…」
にょき。と視界に映り込んできた東は、珍しく突進してくることなく、心配そうな表情を浮かべて隣に座った。
いつもは漫画みたいに綺麗な弧を描いてる眉も垂れ下がっていて、元気なやつにこんな顔をさせてしまったことが申し訳なくて、口角を無理やり上げる。
「ごめん。ちょっと心配事があって」
「最近ずっとそうじゃん。…もしかして、前試合を観に来てた人か?」
「んー、でも、大丈夫だと思う」
「藤…」
と、強張っている俺に東が何か言おうとしたところで、「では始めます」と教授が入ってきた為、東は強制的に口を閉じさせた。
ーーー…少しホッとした。
まだ整理も何もついていない中、あまり喋りたくなかったから。
マイクを通してマーケティングについて論じていく教授の声は、まるでBGMのように流れていく。