恋人⇆セフレ
第11章 空白
パラパラと意味もなしに教材を捲るけれど、離れてくれない思考。
東。俺、自分のこと全然わかってなかったみたいだ。
いつの日か、元彼に浮気をした女の人の話で、俺ならその人の背中を押すし、幸せならそれでいいなんて言ったけれど。
そんなの大嘘だった。
存外、自分は欲が深かったらしい。
「…嫌だよ、志乃さん」
ぽつり。思わず溢した言葉は、空気に消えていく。
志乃さんがあの人の元に戻ったのかもしれないと脳裏をよぎる度、言いようのないモヤモヤが襲って、辛くなる。
志乃さんが選択したことなら応援したいと思う気持ちはあるのに、嫌だと叫びそうな自分がいる。
だから、ガキなんだ俺は。元々、あの人の代わりでもいいなんて言っていたのに、このザマなんだから。
「ねぇねぇ、澤木真の新作出てるよ!初の恋愛ものだって!」
「えっ嘘ー!絶対買わなきゃじゃん!!」
ーーと、隣からふと聞こえてきた名前に、ピクリと耳が反応する。
思わずバッと顔を向けると、女の子2人も驚いたように俺を見た。
「ご、ごめん藤君、うるさかった…?」
申し訳なさそうにそう言う女の子をみて、しまったと思う。
でも、その本のことは身に覚えがあった。
志乃さんが、次の新作で俺らのことを参考にするらしいから。と言って、その本のために地元に帰って行ったのだから。
「聞き耳立てたみたいになって驚かせてごめんね。その本、俺も何か知りたくて」
こそ。と小さな声でそういうと、花を咲かせたように顔を輝かせる2人。
「えっ、うそ!藤君も澤木真さんのファンなのっ?」