恋人⇆セフレ
第11章 空白
橘 里(たちばな さと)
少年はそう名乗った。
苗字を聞いて、なんとなく分かっていたけど、腑に落ちるとはまさにこう言うことなのだろうと思った。
「おにーさんは何にする?」
そして今。何故か俺は、その少年と2人で、カフェで向かい合って座っている。
「俺は珈琲で…。えっと…真木さんはどこに…」
「なに?そんなに俺と2人が嫌?」
「そういうわけじゃないよ」
何故か冷や汗が止まらない。そのまん丸い瞳で見つめられると、息が詰まりそうな圧を感じる。
この時ばかりは、真木さんがいないことを恨みそうだ。
少年はそんな俺に溜息を吐くと、唇をへの字に曲げて少しだけ身を乗り出した。
「真木は最近仕事仕事で全然休んでないの。今日も新作を練るだとかなんとか言って、折角こっちに来たばっかの俺を置いていくんだもん」
新作が出たばかりなのに、もう次のストーリーを練り出してるのか。
感心しながらも、頭の隅で志乃さんのことを考えしまう。
そんなに忙しいのなら、真木さんにあまりかまってもらってないんじゃないだろうか。
…寂しがってそうだな。
頬を膨らませ、メニュー表を見ている里君を、寂しがっている志乃さんの姿と重ねて見てしまう。
里君といると、会いたい気持ちが爆発してしまいそうでダメだ。さっきまで会えるかもしれないと思っていた分、余計に。