恋人⇆セフレ
第11章 空白
「んー、俺はビーフシチューセットにしようかな。おにーさんは、本当に珈琲だけでいいの?今回は恩があるし、俺が奢るよ?」
年下の少年にそんなことを言われ、咽そうになる。
「え、何そんなに驚いてるわけ?」
キョトンとした表情を見るに、本気で奢るつもりだったらしい彼に、俺は慌てて首を振った。
俺の慌てっぷりに、近くを通ったウエイターの人にもギョッとされる始末だ。
「いや、あんまり言われ慣れてないから驚いて…気を遣わなくていいよ」
「…俺がガキだからって遠慮してるんじゃないよね?」
ギクリと肩を強張らせてしまう。ガキとまでは言わないが、未成年の男の子に奢らせるなんて、とんでもない。
俺は汗を背中にダラダラと流しながら、営業スマイルさながらの、にこやかな笑みを浮かべて見せた。
「それよりも、さっきから気になってたんだけど、”恩人”とか”恩”とかって、何?俺の記憶が正しければ、君と会うのは初めてのはずだけど…」
あからさまな話題逸らし。まあ、気にはなっていたから知りたくはあるし、是非答えてほしい。
当然話を逸らされたことは少年も気づいているが、不服そうながらもメニューを閉じ、気怠そうに呼び出しボタンを押してから窓の外を見た。
「俺ね、真木が好きなの」
「ーーーーーーーーー…………………え?」
とんでもない爆弾のボタンも一緒に押して。