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恋人⇆セフレ

第13章 モヒート





伊織から名刺をもらっていたらしいハナミヤさんからの情報によると、大企業が立ち並ぶオフィス街に伊織の勤め先はあるらしかった。



あの顔と愛嬌に、エリート人生。
他の奴らが放っておくわけがない。


あの口ぶりからまだ付き合ってる奴は居なさそうだが、うかうかしていると"アピールしてくる男"に伊織をとられるのはわかる。



そんなの、


「いやだ」



ぼそ、と呟いて、ベンチに座りながら行き交う人々に目を凝らす。
春を迎え、日が沈むのが遅くなったと言っても、6時半となるともう暗いし、風も冷たくなってくる。



ただでさえ見つけづらい上に、ここを伊織が通るのかも分からない状況だ。




ーでも、ここがダメなら、また別のところで伊織を探せばいい。
ぎゅ。と寒さしのぎに買った自販機のホットティーを握りしめ、手に息を当てる。



飲みに行くって言ってたし、ここから飲み屋街に向かうならこの方向のはずなんだがーーーーー、




「って、ストーカーかよ…」




は、と自嘲気味に笑うも、立ち上がることはしない。



そしてどれ程だったか、そろそろ移動しようかとも思うも、もしかしたらもうちょっとで通るかもしれないと思ったら動けない。



「くそ、連絡先聞いときゃよかった」




ーーー携帯を変えた時、仕事以外の連絡先は消したから、伊織の連絡先はどこにも入っていない。名刺には会社用の番号しか書かれてなかったし…。



自分で決めた行動を今更こんなに後悔するなんて。




「寒…」




ーーーーー身を縮めながらもう少し、もう少しと待っていたが、結局伊織を見つけることはできなかった。






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