恋人⇆セフレ
第3章 素直に。
真っ暗な視界の中、真木が深く息を吐くのが聞こえた。
「志乃。これだけは知っててほしい。俺は、一度だってお前を好きじゃなかったことなんてなかった」
は?
そう口にしようとした唇は、ひどく懐かしい感触で遮られた。
「ーーーーー…」
それは一瞬で、我に返るより先に離れた熱をぽかんと見つめる。
今、こいつ、俺にキスした?
「…悪い」
「は?」
しかも、その後に発した言葉にいよいよブチ切れそうになる。悪い?俺にキスしたこと?それとも俺を捨てたことか?
ーー大体、俺とのキスで謝るって、どういう了見なんだ?
「もう二度としない。これからは仕事のパートナーとして一緒に頑張ろう」
…あ、もうだめだこれ。
「……もう我慢できねえ。さっきからわけわかんねえことばっか言いやがって…」
ドンッと拳で真木の胸を押し返し、ゆらりと立ち上がる。
「…志乃?」
「言い訳がましいこと言わなくたってな、お前が女とキスしてんのも家に入れてんのも知ってんだよ。俺を好きだったのは嘘じゃなかったとしても、女に心変わりしたってのに変わりはねえだろ!
大体、3ヶ月前に俺らは別れてんだからいいだろ。俺だって女に行かれてプライドが傷つけられたことにイラッとしただけだから。それだけだからほんと」
早口で捲し上げ、言い切った時には息切れ状態で。少しだけすっきりした俺は、目を瞬きさせる真木にニコリと笑い。
「仕事を受けた以上、これからは"澤木先生"を全力でサポートしますので、よろしくお願い致します。
では、今日はご挨拶だけとお伺いしたので、失礼します」
歪みそうな表情を見せないうちに、真木の家から飛び出した。