恋人⇆セフレ
第14章 エピローグ
夢の中の出来事は、もちろん夢の中だけだ。
だから、彼と何度も逢瀬を重ねていたあの大きな木は存在しない。
だけれど、あの黄金に輝くススキも、大きな桜の木も、私たちの中では確かに存在した。
「綺麗ですね」
夢の中の桜の木とは違うけれど、淡いピンクの花を枝に飾った若い木を見て、隣に立つ男に言葉を投げかける。
ふわりふわりと風に乗って落ちてきた花弁を、そっと優しく手で受け止めた男は、柔らかく微笑み。
「うん、本当に」
夢では知り得なかった優しい声色を響かせた。そして私の手に掴んだ花弁をそっと乗せてくれる。
確かに感じる体温と、鼓膜を震わせる穏やかな声。
掴みきれなかった愛おしいそれらを、今は掌に全て詰められている。
これからは、夢だけでは分からなかったこと全てを知っていこう。そして、来年も再来年もこの桜の木を一緒に見にこよう。
この奇跡を忘れてしまわないように。