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青色と黄色の短編集

第14章 そばにいる

Nside




「社長、明日のコンペの準備出来ました。」


「そうか。おつかれ。じゃあ帰るわ。」


「お疲れ様です。」



手際よく社長の荷物をまとめ、ドアを開けた。


「では、また明日。」


専属の運転手が運転するリムジンが
道を曲がって見えなくなるまで礼をする。




これが私の日課。


私は昔から数字に強いとよく人に言われる。

経済学を学びこの会社に就職し、
部長にまで昇進したのだけど


仕事の速さや正確さを社長が気に入り、
今は社長の秘書として社長をサポートしている。



普通の社員として働いている時は
そんなに思うことは無かったが、



社長はとても格好いい。



背は高くないけど顔立ちは端正で
意外にも引き締まった体つき。




私の3つ年上でまだ30代だけど、
雰囲気が落ち着いていて大人の魅力がある。




要するに好きなのだ。




まさか自分が男性に、しかも社長に惚れるなんて
思ってもいなかったけれど、



取引先に好評な社長の笑顔を見る度、

私が淹れた珈琲を褒めてくれた時の
あの笑顔に勝るものは無いと思ってしまう。


秘書になって初めて珈琲を淹れたあの日、

「これからもこの味をよろしく」
と優しく微笑んだ貴方。



あの笑顔は私だけのもの。

社長のことを1番知っているのは私。




社長の付き添いでお見合いに行くけれど、


どれもお金と権力が目当ての女性ばっかり。


社長もそれを見抜いている。



でも事情のあるBARにはよく通っていて、


そこで知り合った何人かはセフレになってる。



私なんて下の名前で呼ばれたこともないのに。

ただの1度でさえ頬を撫でられたこともない。



秘書だし、お互いに男性だし、

第一、社長は私に好意がないので当たり前。



だけれど、
「今日は店に行くからもう帰っていいよ」

と貴方に言われる度、


心が苦しくなってしまう。



私も貴方のものになりたい。



できることなら、
私だけを見ていて欲しい。



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