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月の木漏れ灯図書館

第23章 六月の出会い

六月の初め頃、朝からしとしと雨が降っていて、庭先には淡い青や紫の紫陽花があちらこちらに見受けられる。

この辺では紫陽花のことを“六月のサンタクロース”と呼び、雨の贈り物として昔から大切にされている。だから六月になれば、どの場所でも紫陽花でいっぱいになる。

サンタクロースなんているはずないのに。


そう心で呪った瞬間、それはすぐ否定された。


「サンタクロースはいるよ」


通学路は人通りが少ない道を選んでいるはずなのに。今まで誰とも会ったことがないから、すっかり油断していたーーゆっくりと振り返る。

「ーーどうして。どうして、そう言い切れるんですか?」

そこにいたのは淡い青の瞳が印象的な青年。どこか儚さと切なさを感じるーー六月、だからだろうか。

「六月だから。おれの名前は雨香。雨の香りで、うきょう。あんたは?」

“六月だから”

不思議だ。……心地いい。

「私は雫よ。六月生まれなの」

「ああ、知ってるよ」


知ってる?はじめて会ったばかりなのに?

「六月の雨の降る日はここにいるから」

不思議そうにしている私に差し出したのは透き通ったメモ用紙だった。青いペンで、“紫陽花の森”と簡単な地図が走り書きされている。

「おれはここにいるから」

それだけ言うと背を向け、行ってしまった。

ふとあることに気がついた。あの青年、雨香は傘をさしていなかったのに、このメモはまったく濡れてない。

「……なんでかしら」

結局いくら考えてもわからなかった。

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