月の木漏れ灯図書館
第29章 青い駅
まだどこかノスタルジックな面影を残す駅の片隅で、いつものように電車を待っていた。目の前には壮大な海が広がっている。
ここは海に一番近い駅として、全国的にも有名な場所だ。冴島というあまりパッとしない駅名は、いつの間にか“青い駅”と呼ばれるようになった。観光客まで連日のように押し寄せ、SNSにあげるためか、スマホの海でごった返し。
時折吹きつける風に体を震わせているとーーいつの間にか隣には黒衣を纏った、奇妙な男が立っていた。胡散臭い笑顔を貼りつけて。
「電車を待つ間暇だろう。ってわけで、私が話し相手になろうじゃないか」
「いや頼んでないし。あんた、図々しいってよく言われない?」
「生憎そのようなことは言われないな。口煩いとは言われるがね。ああ、あと働かないくせによく食べるとか」
「……やっぱり図々しいじゃん」
呆れて物も言えないとはこのことか。今はじめてそんな心境になったかもしれない。
「おっと自己紹介をすっ飛ばしてたぞ、いけないいけない。私のことは愛をこめてミカヅキと呼ぶといい」
「気持ち悪い」
愛をこめてとか、初対面で気持ち悪いだろ。しかたなく名乗ることにした。ここまできたら、諦めるよかしょうがない。
「……遥輝」
次の瞬間思いがけない言葉が返ってきた。
「私の方は知っているとも。青翔高二年、峰町遥輝。母子家庭でバイト三昧の苦労人。モテるが、異性には一切興味なしーーついでに口が悪い。合ってるだろう?」
一体これはどこ情報なのか。頭が痛い。