子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第5章 俺の天使
アパートの扉が閉じる音がして、誠也さんがあたしの部屋から出て行った。
………もう、この部屋に誠也さんが来ることはないんだと。
固い扉の音で気が付いた。
明日からはまた、ただの上司と部下に戻るんだ。
本当に戻れるの……?
「……何で行かなかったんだ?お前が行けば、まだ、戻れたんだ……この状況を作った俺に、襲われたんだと言えば、まだ…っ!」
……この、状況を作った?
涼くんの言葉に首を傾げる。
「そんなことない、あたしは…自分の意思で…っ」
……涼くんを受け入れたのは、あたしだ。
ずっと憧れていた、
ずっと好きだった。
涼くんに釣り合うような、大人の女性になりたかった。
いつまでたっても、大人の女性になれなくて、時がたてば、勝手になれると思い込んでいた。
涼くんに大人のそういう付き合いだと、言われた時は、
正直、それでもいいのかもしれないと、どこかで思っていた。
……ずっと好きだった筈なのに、素直に涼くんの腕に飛び込めない。
「まだ…熱があるから…ちゃんと休もうよ?」
いつまでも裸のままじゃいけない。
出来るだけ、大きめなTシャツワンピースを着てもらい、
ベッドに入るように言い聞かす。
素直に言う事を聞く涼くん。
お粥を作って食べて貰い、風邪薬を飲んで、また寝て貰う。
ベッドに入る時に、一緒に引き寄せられて、抱きしめられて、
目を閉じる。
すぐに目を閉じる涼くんの寝顔を見て、やっぱり、離れられない、
あたしはずっと、涼くんが好きなんだと、確信した。
誠也さんの事を考えると、胸が傷むけど、それでも、
一緒に過ごした時間は、幸せだったんだ。
誠也さんと涼くんと、二人の為に用意したお弁当が台所にあって、
結局、誠也さんに、お弁当を作ることは、なかったなと気付いて、
涙が止まらなかったんだ。