子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第6章 大人の関係
週末の居酒屋は忙しいようで、騒がしい。
野上と大声で会話しないと、聞き取れない程だ。
「……森下さんてさ、美大出身でデザイン開発課に、ほぼ入社が決まってたみたいだっただけど、俺、たまたま聞いちゃったんだけどさぁ」
野上が生ビールを飲んで、歯切れ悪く口を開いた。
「真木部長が社長に総務課に是非にとお願いしたらしいよ?社長と親戚だからさ、今回の人事も森下さんの将来の為にって、自分の手元に置いとくのは、なんか違うからって言ってたんだよな」
「……えっ?そうなの?」
驚いてビールが喉に詰まりそうになってしまった。
……じゃあ、ひょっとしたら真木部長は、最初から森下ちゃんが好きで?
知り合いだったとか?
「…へ、へぇ…?」
真木部長に憧れていた。
真木部長だったら、誠実に大事にしてくれそうで、
そんな包んでくれるような、大人に憧れていた。
……でも、一緒に働いたらすぐに分かった。
真木部長はいつも、森下ちゃんを見ているということに。
あの身長だから、困ってるような時は、誰よりも早く手助けしていたし、
高い場所にある書類とか、資料とか、買い出しの荷物持ちまで、
部長自ら動くと、気になって、あたしも一緒になり、自然と森下ちゃんが好きになった。
今ではすっかり友達で、付き合ってると聞いて、むしろほっとしたのに。
幸せそうな二人だったのにな……?
なんだかしんみりした雰囲気になってしまった。
「……人の気持ちって、複雑だよね?」
麻生さんにしろ、幼馴染みなんていないから、良く分からないけど、
森下ちゃんが笑ってればそれでいい。
……じゃあ、あたしはどうなんだろ?
野上のこと、本気に好きになりたくないから、体の関係だと、一線引いて。
こじらせた、独身女だよね……?
だけど、この年になったから、尚更、つらい恋はしたくない。
正直、実家のお母さんは、お見合いしろって煩いし、
それもいいかなと、思ったりもしてるんだ。
「……そうだな、特に結婚適齢期の女はなあ?」
ふっと笑う野上。
その視線にからかうような光が見えて、思わず睨み付けた。
「……うるさいな」
野上の綺麗な顔を崩すように、頬をつねった。