子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第7章 愛され過ぎて
江藤彩音side
午後からの仕事を主に外回りにして、桐生となるべく顔を会わせないようにする。
……そりゃあね、年齢的に結婚適齢期、むしろ焦った方がいいくらい。
29歳よ、ヤバいのは分かってる。
だけどあたしは……、
脳裏に浮かぶのは、麻生 涼の姿で、森下さんと付き合ってるのも知っている。
諦めている、とっくに。
……恋愛も、結婚も、
わざわざ見合いしてまで、結婚しようとは思わない、そんな気にはなれないんだから。
少しだけ残業になり、会社に戻って、廊下で久し振りに常務の姿を見た。
常務は社長の弟さんで、あたしの父親とは同級生らしい。
あたしの存在に気付いた常務が、軽く手を上げて、足を止めてくれた。
「やあ、江藤くんじゃないか?相変わらず綺麗で何よりだね?今度お見合いするそうじゃないか、桐生くんの父親とは親友でね?あの子も子供の頃から知ってるんだよ?真面目でいい子だからな、よろしく頼むよ?」
笑いながら背中を軽く叩かれる。
「…あのう…お見合いするって…いったい誰から聞いたんでしょうか?」
「あ?そりゃ、桐生くんだよ?さっきそこで会って、嬉しそうに話してくれたんだよ?このまま、結婚となると、嬉しい限りなんだがね?」
明るく笑う常務と一緒に、ひきつって笑い、ついでの世間話を聞いて、やっと開放される。
何を考えてるのよ、桐生の奴は……っ、
先に常務に話して、あたしが断れないように、絶対そう仕向けたに違いない。
ムカムカしながら歩いて、麻生の背中を見つけて、声を掛けようとして、
足が止まる。
デザイン開発課から、ちょうど森下さんが出て来たところだった。
麻生は森下さんの手を引いて、急騰室に入って行く。
何の気なしに覗いて見て、足が凍り付いた。
麻生は、森下さんにキスをしていた。
……それも熱烈な激しいキス。
身長の低い森下さんに、覆い被さるようにして、彼女の背中をかきいだく。
その姿はまるで、映画やドラマみたいに綺麗で、情熱的だった。
「……だめ、涼くんこんなところで…っ、お家に帰ってからじゃないと…っ」
真っ赤な顔をして、麻生の体から逃れる森下さん、
その表情はゾクリとする程に艶やかで……、胸が痛くなった。
付き合ってるのは知っていた。
だけど目の前で見るのとは…違う。