子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第8章 本当に好きな人
麻生 涼side
会社のエレベーターで、愛莉に会って、一緒にいるのは、同じデザイン開発課の鈴木だと気付いて、
様子がおかしいような気はしたんだ。
エレベーターのボタンを見て、資料室に二人で行くんだと思って、
会議があるから、途中の階に下りた。
会議室に入って、真木がなかなか現れないと、皆がざわついたから、
真木を呼びに、会議室を出た。
総務課も営業部も、真木の姿はどこにも見当たらなくて、
ふと思って、愛莉が向かった、資料室へと向かった。
資料室に向かう廊下で、愛莉の悲鳴が聞こえた気がした。
「…いやぁ…っ、助けて…っ、誠也さ…っ」
……今度ははっきり聞こえた。
真木の名前を呼ぶ、愛莉の悲鳴。
弾かれたように真木が資料室のドアを蹴飛ばして、中に入って行く姿を見つける。
いつになく、余裕のない態度。
いつも大人びた真木の、焦った様子を見て、俺は動けなかった。
……愛莉が呼んだ、名前は……、
誠也さん、
真木の名前。
……俺の名前じゃない。
その事実に頭を鈍器で殴られたような、強い衝撃を受けた。
資料室から慌てて、逃げて行く鈴木を見て、開いたドアの向こうで、
愛莉が真木にすがるように、抱きついて、
真木は大事そうに、がっちりと、愛莉の小さな体を抱きしめた。
ああ、なんだ。
最初から、二人は、愛し合っていたじゃないか。
それを俺が、横からかっさらう真似をした。
見た目は子供っぽいのに、昔から、母親のような内面を持つ愛莉。
俺はただ、寂しくて、
ずっと甘えていただけだった―――。
一緒に居ても、いつも訳の分からない不安を抱えて、
体だけ繋がり合っても、満たされなくて、何度も求めて安心して、
そうやって誤魔化し続けていた。
俺の名前を何度も呼ばせて、愛莉の体に、俺の存在を刻みつけても、
寂しさは、埋められなかった。
訳の分からない不安は、
つまりは、そういうこと……。
愛莉が愛しているのは、俺じゃない。
……真木だけだったんだ。