子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第8章 本当に好きな人
愛莉と真木を呼び出して、はっきりさせようとして、二人を会わせた。
俺はこそこそと変装して、二人を見ていた。
……何をやってるんだ、俺は。
馬鹿馬鹿しくて、つい笑っていたら、
「……麻生部長じゃないですか?」
聞き覚えのある声がして、ギクリとして振り返った。
同じ営業部の川合伊代だ。
会社ではいつもかっちりパンツスーツ、かっちりと髪も纏めているのに、
目の前にいる川合はデートなのか、長い髪は巻き毛にして、
服も女らしい流行りの服で、短めなスカートだ。
スタイル良くて、モデルのような川合に、良く似合う格好だ。
女は見た目で変わるモノだ。
初めて営業部で挨拶した時の、俺のセリフを思い出す。
『川合伊代か、君の親はだじゃれが好きなのか?結婚して名字が変わると無駄になるのにな?』
俺のセリフに、言い慣れているのか、生真面目に川合は答えた。
『結婚すれば、川合げなんて、なくなるモノだから、いいんじゃないでしょうか』
……面白いヤツだと思ったんだ。
「……なんだ川合こそ、随分と可愛いくして、婚約者とデートか?」
……婚約者がいるという話は聞いているが、一向に名字が変わる気配はない。
女子社員の噂では、デマじゃないかと言われている。
俺は残業し過ぎて、逃げられるんじゃないかと、心配してるんだが……。
「そのつもりだったんですけど、来れなくなったようです……、あの、部長は何を…?浮気調査でも…?」
真木と愛莉が手を繋いで、先を歩くのを見て首を傾げている。
「まぁ、そんなもんだ」
ふっと笑って、距離を取り、二人の後をついて行く。
「では、私も一緒に同行してもいいでしょうか?一人で居たくないので」
俺について歩きながら、川合が寂しそうに笑う。
その笑顔を見て、ズキリと胸が痛んだ。
「そうだな、俺も……一人では居たくない、しょうがないから、変わりにデートしてやるよ?」
「その伊達メガネ、かえってお洒落で無駄に格好良くて、目立ってますよ?」
くすりと笑って川合が言う。
そういえば、まともに笑った顔は初めて見た。
「マジかよ?地味にしたつもりだったんだけどな?」
「二人には気付かれてないみたいだから、いいんじゃないでしょうか?」
「そうか」
寂しいモノどうし、一緒に歩く。