子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第8章 本当に好きな人
「わあ…っ!」
急に観客席の声が上がり、びくっ、
すぐに離れるあたし達。
「…あ…っ」
我に返って、急に恥ずかしくなり、周りを見渡す。
それは誠也さんも同じだったらしく、唇の前に腕をかざして、
やけに赤面している。
「…あれっ?今……?」
「お母さん、この人達ちゅうしてたよ?」
「…しっ!」
反射的に二人で立ち上がり、誠也さんに手を引かれて、
いたたまれずに、その場から、走って離れた。
水族館の暗闇の中に入って、小さな路地めいた通路に連れて行かれる。
「…誠也さん…?」
「悪い、……あれだけじゃ、足らない、愛莉……っ」
久し振りに名前を呼ばれる、切なく掠れた声に、胸が熱くなった。
あたしの頬を挟むようにして、誠也さんの手が持ち上げるように、
上を向かされる。
そこに誠也さんの唇が降ってきて、唇が甘く重なった。
腰を屈める誠也さんに、精一杯の背伸びをするあたし。
「…ふっ…んぁ…っ」
求めるように、舌が差し入れられて、あたしの舌に甘く絡まる。
久し振りの誠也さんとのキスに、声が止まらなくて、
背伸びした足が震えた。
「……愛莉、好きだ、俺の気持ちは、ずっと変わらない」
そっと離れる唇、至近距離でじっと、踏み込むように見つめられて、
ほんの少し体を引いて、目を反らしてしまう。
「……社長の娘さんと、婚約していると…聞きました…」
「違う、それはただの噂で、昔の同級生なんだ、社長に会いに来て、ついでに話をすることが、あるだけで…」
「……でも、ホテルで一緒に食事してましたよね…?」
「ただ、食事しただけだよ?……俺がいつまでも独身だから、社長が心配してるだけだ」
「……」
……あたし、嫌な性格している。
自分だって涼くんと一緒だったのに、嫌なこと言ってしまっている。
「……愛莉?」
困ったような誠也さんの表情、
あたしは話を反らすように、歩き出して、水槽の中で泳ぐ魚に視線を向けたんだ。