子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第8章 本当に好きな人
麻生涼side
「麻生部長…今、決定的瞬間を見てしまいました…」
ケータイのシャッターを押した川合が、複雑そうな表情で、
チラリと俺を見た。
「ああ、そうだな?」
ふぅ、
大きく息をつく俺に、川合が首を傾げた。
「何を冷静に言ってるんですか?キスしてましたよ?あの真木部長が、森下さんと、こんな場所で堂々と、思わず証拠写真撮りましたけど、後ろからでもばっちりです、これ、どうしましょうか?」
撮った画像を俺に見せようとする川合、その画像をまともに見れずに、
ふいと目を反らしてしまう。
……真木が愛莉を好きなのは、ずっと分かっていた。
諦めてないということも。
会社で見かける真木の視線は、いつも愛莉を目で追っていた。
分かってて、俺が奪ったんだから。
俺を見る真木の複雑な視線にも、気付いていた。
だから、二人きりのデートをすれば、こうなることも分かっていた。
覚悟していたからか、不思議とそこまでショックではなかった。
……一人じゃないからか。
何か言いたげな川合の顔を見て、ふっと笑う。
心配そうな不安な顔、婚約者がいるらしいのに、いつも一生懸命なやつだ。
「…出ようか?」
……ここは騒がしい。
イルカショーを見て盛り上がる観客の間を、川合の腕を引いて出て行く。
暗闇の中、水槽の光が淡く光る、水族館の中に移動する。
綺麗な魚が様々に泳いでいる。
その中で、小さくても早いスピードで泳ぐ魚があり、
同じ種類の大きな魚がついて泳いでいた。
「俺とあいつみたいだな…」
小さくても、内面はしっかりして、自分の実力で道を開いていた愛莉。
そんな愛莉を表向きは心配しながらも、大人になっていく姿に不安になり、
ついて行って来た。
……寂しくて、一人になりたくなくて。
「…えっ?」
首を傾げる川合、水槽の中の魚に目を凝らしている。
「あいつとはずっと幼馴染みで、家も隣同士でさ、晩御飯とかいつも作って貰ってたんだ。家族みたいに過ごして、兄貴みたいに門限とかうるさくしてな?……そうやって束縛してたんだ」