子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第8章 本当に好きな人
「麻生部長が…ですか?」
意外そうな表情、目をパチパチと瞬きしている。
「そう、なんのことはない、俺が寂しかっただけなのにな?絵が上手で才能もあって、いろんな賞を取る度に不安になったもんだよ、
美大に行くなら、インテリアデザイン学科なら就職の幅も広まると言って、今の会社だって俺が誘ったんだ」
「そんなに、好きだったんですね?」
「……そうだな、いつも傍に居ないと不安だった。だけど……、あいつはそうじゃなかった。
俺が居なくても、しっかり仕事するし、友人にも囲まれて、俺意外の男にも好かれて……」
「……森下さん可愛い人ですもの、いいって言ってる人、多いですよ?」
「当たり前だろう、あんなに可愛いんだから。
俺はあいつが羨ましかったんだ、建築高校、専門学校と人生それなりに挫折を味わって、女は俺の内面を見てくれる人もいなくて、だから…愛莉しか居ないと思い込んでいたんだ」
こんな話、川合にしてどうするつもりなんだ。
聞いてなくても、意味が分からなくても、
それでもいい、
ただ、今、傍に居てくれる人がいる、
それが、救い…だった。
川合は俺の話を、じっと聞いてるように見えた。
二人で立ち止まり、水槽の中泳ぐ、魚を見つめる。
「あいつが真木と付き合ってたのに、横から奪うような真似をしたのは、俺の方だったんだ……。
無理矢理傍に置いて、二人を引き離して、だけど真木のことを忘れてなんかいなくて、分かっていたのにな?」
「……そこまで人を好きになれるなんて、私には羨ましいです」
水槽の中を泳ぐ魚を見つめる川合、
淡い光が彼女を照らし、その横顔が寂しそうに見える。
「おいおい、お前、婚約者がいるんだろう?」
会社では地味で仕事ばかりバリバリして、色気も感じさせずに、
飲み会にもろくに出席しない。
友人もいないように見え、人のミスも冷静に注意して、煙たがられていて。
婚約者というのは、嘘だと噂されている。
まさか、本当にそうなのかと、心配になった。
「私、昔は体育会系で、ガサツだったんです、女子校でモテるくらいに男らしい外見で、身長も高めだし、ガッチリしてるじゃないですか?恋愛に興味もなくて、家は空手道場なんです」
営業の成績は常に上位をキープしていて、低めのヒールの踵は、
しょっちゅうすり減っている。