子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第8章 本当に好きな人
川合伊予side
重い足取りで月曜日に会社に、いつものビシリとした、
パンツスーツで出勤する。
今日の予定をたんたんと、麻生部長に報告して、すぐに外回りに行く支度を整える。
「今日行く会社は、契約になりそうか?」
「はい、任せて下さい」
「じゃあ、任せたぞ」
いつもと同じようなやり取り、頷く麻生部長の表情が、
ふっと笑ったように見えて、ドキリとする。
気のせい、仕事なんだから。
今日行く会社は、半年以上も通いつめた仕事だ。
今日やっと契約にこぎつける。
私からすれば当たり前、なんだけど。
他の社員の耳に入ったのか、ぼそりと呟かれた。
「契約取れそうだって、今月何件目かよ?」
「あんな愛想悪いのに、良く取れるよなぁ?」
「早く結婚するならして、寿退社でもすれば、可愛いげもあるのに…」
私に聞こえるように言う男性社員。
気持ちは分からない訳じゃない。
私だって入社した当初は上手くいかずに、落ち込んでばかりいたし。
だけど悔しいから、なるべく自分の足で、人一倍歩いて訪問し続けた、その結果だ。
立ちどまれば不安になるから、やみくもに歩き続けて、捻挫した時もあるくらいなのに。
そんな話をしてやりたいくらいだけど、何を言っても嫌味になるから、
聞こえないふりをして、会社を出た。
だけど私だって、一応女だから、精神的に弱い部分もある。
先ほど言われた嫌味が答えたのか、自信持って提案していた契約が、
取れなかった。
私の勢いが今一つだったんだろう。
自覚はあった。
前に説明した内容に変わりはないのに、その時の私との、
温度差を感じたんだろう。
社長は印鑑を押してくれなかった。
余計に落ち込んで、ついでに他の会社にも営業して、
会社に戻っても、残業して、資料をもっと分かり安く作り変えていた。
……また、残業。
こんなんだから、婚約者にも逃げられたのかもしれない。
思い返せば、仕事終わりに食事でもと、何度か誘われたのに、
私は断ってばかりだったんだ。