子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます
第1章 片思い
仕事が終わり、そわそわする女子社員、会社のトイレで念入りにお化粧直しをする人が多い。
今日の飲み会の話で盛り上がっている。
話の中心はやっぱり涼くんだ。
『麻生さん狙いよね~、営業部の女子には負けられないわ~』
『でも営業部には江藤さんがいるからね、付き合っている噂あったじゃない?』
『仕事も出来て美人だし、江藤さんが相手なら太刀打ち出来ないよね?』
『それでも少しでも話出来たらいいけどね?麻生さんなら酔った勢いでお持ち帰りされたいわ~』
かなり肉食女子の会話だ。
洗面所で手を洗いながら、ため息をつく。
涼くんに酔った勢いでお持ち帰りなんて……、今までろくな恋愛してないあたしには、恐れ多い。
大学で合コンに行っても、誘われることもなく、未成年扱いされるばかりだったし。
当然未だに処女だし。
それでも少しでも大人の女性に見られたいから、念入りにお化粧直しをする。
「森下ちゃん、口紅の色変えたの?」
同じ総務部の藤原さんが、鏡の中のあたしを見てふっと笑う。
藤原さんは優しくて面倒見が良くて、スタイルのいい美人だ。
「うん、少しは大人っぽいのをと思って」
未だに居酒屋で、未成年扱いされることがあるから……。
いつもピンク系のグロスが多いけど、この機会にと濃い色にしてみたんだ。
「う~ん、でも森下ちゃんは、やっぱりいつものピンク系が一番似合うと思うよ?食べちゃいたくなるもの」
そう言って藤原さんは、あたしの唇を指でなぞった。
変わりに化粧ポーチから、自分の口紅をあたしの唇に塗ってくれた。
「あっ、そんなもったいないよ?」
高そうな口紅だ。
「いいのよ、あたしには似合わないもの、これならうちの真木部長もイチコロよ?」
「真木部長?いやいやそんなっ、恐れ多いっ」
真木部長は総務部の部長だ。
イタリアと香港支社にと二度程異動後、部長へと昇進したエリートだ。
優しくて出来る上司、見た目も美形、女子社員の羨望の的だ。
浮いた噂が一つもなく、飲み会に参加するのは珍しい。
でも涼くんとは同期らしく、会社でも何度か会話してるのを見かけた。