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『ま゜』

第1章 に゛

 二階の奥の部屋が、紗知の部屋だ。

 扉を開けると、フローリングの床に、小さなベッドと机。マンガ本しか並んでいない、カラーボックスと丸いカラフルなクッションが3つあるだけの、女子らしからぬ殺風景な部屋だ。

 紗知は、ベッドを優しく撫でて言った。
 
「この部屋とこのベッドはね、お母さんが使ってたんだよ。それまでは私、お姉ちゃんと2段ベッドで寝てたんだけどさ、なんか、ここにいるとお母さんがいつもいるような気がするんだぁ」

 紗知の母親は3年前に乳癌を患って、他界している。

 この部屋は、主人の羊が、仕事を持ち帰り、パソコンを使って遅くまで仕上げているのを、邪魔しないようにと、母親が寝起きをするために設けたものだ。

 姉、恵実と、同じ部屋を使っていた紗知は、母親の香りが残る部屋を使いたいと昨年、この部屋に移った。

 部屋が殺風景なのは、自分の持ち物が少なかっただけの話だ。

「聞いてよ、水戸さん。お姉ちゃんさ、私がここに移った時、部屋が広くなったって喜んでるんだよ。お母ちゃんが亡くなったことを喜んでるみたいでさ、なんか憤りを感じるんだけどなぁ」

 紗知の話を聞いて、水戸さんはこう答えた。

『し*び'と゜が^え"り`(いえ、きっと恵実様も悲しんでるはずです。本当は自分がこの部屋を使いたかったはずです。それを紗知様にゆずったんですよ)』

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