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触って、七瀬。ー青い冬ー

第19章 夢色の雨




話をするのが苦しくて


愛想笑いや話を聞くフリ

そんな自分を嫌悪する

その繰り返しで精神が疲労していく悪循環


そのくせ一人でいると息ができなくて


なぁ、お前一体


どうしたいんだよ



僕は

どうもしたくない


…何もしたくない


ただ眠っていたいだけだった


深くてくらい海の底で

鯨の声を聞きながら

眠っていたいだけなのに




そう願うのはこの世界では許されない


それじゃあ生きていけないんだと

海の底を目指すほど思い知る

だって僕は人間だから

海の中じゃ、息が出来るわけがない

陸の上じゃなきゃ生きられない

そういう運命


つまり僕の居場所はどこにもない


そういうことだろ?



だから思った

生まれてくる場所を間違えた

僕は道端の草や花になるべきだったのに

脳みそや大きな体、口や耳、目なんか頂いてしまって


生きづらいこと限りない


誰かに踏まれても、気付かれなくてもいい

だって僕は植物だから

何も感じない


それがどれだけ幸せなことか

植物は知らない


羨ましい


人間になるには僕は弱すぎたよ


もっと人間になりたい奴がいただろうに


家の中で寝転がるしかすることがない猫とか


首輪で繋がれて道行く人に吠えるしか仕事のない犬とか

いずれ殺されて食われることを知らないで
たらふく食べて太っていくだけの豚とか


そんな彼らの方がよほど人間になるに値するのに


僕はこんなに汚い体も心もいらないのに



欲しい奴がいるならくれてやる


綺麗な水を見て笑みをこぼす
退屈な日々を知らない小さな子供に


学校に行きたいと願ってやまない彼らに


くれてやる
くれてやる
くれてやる


だけど

どうやって


どうやって



ああ、何もできない

ただ息をして

死ぬのを待つしか



この命がいずれ望まれる者に恵まれるのを待つしか


待つしか



ああ、明日も早いから

早く眠って起きる準備をしないと


でもどうせ起きるのに

眠らなきゃいけない理由は何

どうせ死ぬのに生きなきゃいけない理由は何

どうせ終わるのに始めなきゃいけない理由は

どうせ生きるのに
死にたいと願わなきゃいけない理由は何






なぁ、一体どうしたいんだよ





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